♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
「私はまた、静の事をないがしろにしてしまった。

静は、自分のお母さんが亡くなって初めて、絵をやる意味を理解したって言ってたけれど、私もまた、彼女を失って初めて、今の私が絵をやり続けてこられた訳を理解した。

あの子自体が、私の大好きな絵をやっていく為の希望の光、太陽だったんだって。

それからは、いつか静とやり直せる日が来るかもと、彼女の技法を引き継いでやってきたけれど、空を飛び続けてきたけれど、何だか、虚しかった。

そしてあの、紅葉公園での出来事。

…自分の作品を、散々叩きのめした後、何かこう、妙な開放感があった。

その時、解ったの。

ああ、私は飛ぶ事に疲れたんだ、って。

それでも、自分自身で飛ぶ事を止める勇気が無かった。

何か、きっかけが欲しかった。

だから、今回の謎の人物からの手紙は、私にとって願ってもない事だった。

チャンスだと思った。

過去のトラウマを利用して、自分の絵の人生に止めを刺す。

私の様な裏切り者には、ふさわしい幕引きだと思った。

その格好の理由が、今回の『金色の天使』の破壊。

三年生になれば、受験で忙しくなるから、本格的な高校生活最後の美術部の活動は、この浅野展に出品する、『金色の天使』で終わり。

でも、最後を華々しく飾る資格なんて、今の私には無い。

最後の舞台で、飛ぶ事を許されないまま、輝きの魔術師と言う名と共に絵を描く日常から消えてしまいたいと思ったの…」




「…そんな事ぐらいで、許してもらえるとでも思ってるの?

甘いのよ、雪野!」

突然、誰かが叫んだ。

声のする方に、皆の視線が集中した。

…その声の持ち主は、京子だった。

「アンタが元々、その絵画を壊してもいいって考えだったなら、アンタの絵画を壊すにふさわしいのは、静だと思ってさあ、私がケータイで呼び寄せた。

さあ、いっておいでよ。」

「分かってる、京子。」
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