♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
そう言って、京子の後ろから現れたのは、少し茶色がかった色の髪、それを後ろにポニーテールで結び、眉は細めにキリッと描かれ、細い目、意志の強さを感じさせる、スラッとしたラインの顔。

雪野恵の絵画、『金色の天使』を壊してしまう計画を立てた主犯、小谷静だった。

静は、無表情のままつかつかと恵の方へ歩み寄った。

それを受けて、恵の周りを囲んでいた春子や礼士をはじめ他は一斉に避け、モーセの様に、静の恵までの一本道を作り上げた。

静の、恵に向けられた視線。

ゆっくり、ゆっくり、だが、確実にその視線は恵の方に近づいていった。

そして、恵の目の前まで来た時、その視線は、まだ未完成の金色の天使の方に向けられ、動く事を止めた。



静が、口を開いた。


「…これが、『金色の天使』。

私が、壊してやろうと思ってた作品…

見るのは、初めてだけれど。」

「…」

黙り込んだ恵の方に、静は振り向いた。

「アンタ、私がやるまでもなく、自ら輝きの魔術師としての自分に、そして、絵を描く自分に決別するつもりでいたそうね。

…じゃあ、この絵を私がズタズタに切り裂き、突き刺し壊しちゃっても、言い訳だ。」

そう言って、静はすっと、小刻みに揺れる右手の平を、恵の前に差し出した。

「ちょ、ちょっと、アンタ…」

静の前に飛び出そうとした春子を、恵は顔も合わせず、さっと、手を突きだし制止させた。

「…静。これはあなたがあの時置いていった、果物ナイフよ。

…そうね。あなたに壊してもらうのが、一番、良いのかもね。」

恵は、少し寂しげに微笑んで、椅子から立ち上がり、静を金色の天使の目の前に導いた。

-小刻みに震える右手で

ナイフを受け取り

そのナイフの鋭く光る先端を

そっと、金色の天使の表面に近づけ…-



「…こんな事ぐらいで本当に、絵なんて止められるの、恵。」

「えっ?」
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