♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
「えっ?じゃないわよ!

本当に、大好きな絵を、捨てる事が出来るのかって聞いてるのよ、恵っ!」




「…出来ると、思…」

「出来る訳無いわよっ!

だって、脚が奪われ、翼まで奪われた私でさえも、絵を捨てる事が出来ずに苦しんでるんだ!

…私はただ、輝きの魔術師なんて呼び名を消し去りたかっただけ!

アンタの絵の人生まで潰してやろうなんて、思ってた訳じゃ無いのよ!」

鋭い金属音が、無言の第二美術室に響き渡った。

床に落としたナイフもそのままに、膝から崩れ落ちた静は、顔を覆う事も無く、うめくように、泣いた。

「…どうして、こうなっちゃったんだろうね。

出来る事なら、あの頃に、戻りたい。

輝きの魔術師なんて名前に用もなかった、初めてあなたに出会った…あの頃に…」

恵も、いつしか顔を覆って、さめざめと泣き始めた。




「…ねえ、恵さん。予測なんですが、『輝きの魔術師達』の作業過程って、筆を使っては、ナイフで整え、筆を使っては、ナイフで整え…って具合にローテーションするのが本来のスタイルなんじゃないかと思ったんですが、どうですか?」

「…?」

「だから、静さんがいなかったここ最近は、ナイフを使う時は、いつもこの第二美術室に絵を運び終えた後…

違いますか?」

「い、いきなり何を言い出すんだ、ハルちゃん?

意味が分かんないんだけれど。」

「ねえ、あなた達。初めて恵さんのナイフさばきを見た時って、どのタイミンク?」

春子は、恵の後輩の部員達に聞いた。

部員の一人が答えた。

「筆で描ける範囲は、全て終わった状態でした。

あっ、あとあの時は私達にすぐ見せる事が出来る為に、とても小さなキャンバスを使ってました。」

「やっぱり…」

「ハルちゃん?どういう事か、さっぱりだよ!」
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