♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
「つまり、本来は筆とナイフの作業は、一人でやるものではないと言う事。

…と、言うより、今回のこの件に関しては、特に出来ない。

だって、あの広報誌にだって書いてたじゃないですか、礼士先輩。

完全に乾いてない状態で、ナイフを入れていくって。

それにもかかわらず、恵さんが、わざわざ一番最後の仕上げでナイフを使い出すって事は、絵の具が完全に乾いてしまう恐れよりも優先される事が合った証拠。

恐らくは、絵の全体を見渡した状態でないと、どう削っていけば良いのか、予測がつかなかったからよ。

ただ、普通は、みんなそう。

頭の中で、描く絵のイメージが全て完結してしまっている、天才的な才能を持った静さんにしか、恵さんをパートナーとして同時進行で絵を進める事なんて、本来出来ないのよ、きっと!」

「…その通りだわ。私は、やはり静の様に器用には出来なかった。

だから、時間をかけて、静かな環境で集中してやるしか方法は無かった…」

「…と、言う訳だから当然今回も、まだその絵には一切、ナイフは入っていない状態…




恵さん、静さん、これが正真正銘、最後のチャンスじゃないでしょうか?

今、正にナイフが入れられて、輝きの魔術師達の本領が発揮される瞬間じゃないんですか?

あの時と同じ…桜咲くあの季節、作品だけじゃなく、これから新たな絵を描く環境に飛び込む、新入部員達に希望の光を与えたあのナイフさばき。

きっと、もう一度見てみたいと思ってますよ。」

春子に言われて、恵ははっとして春子の方に顔を向けた。

涙ぐんでいる春子、そしてその向こう側では、自分の後輩達が真剣な眼差しで自分を見つめているのが、見えた。




…つい先程まで悲壮漂わせていた、恵の顔つきが変わった!
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