♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
「あの事件-」

春子は今、三日前の美術の授業中に起こった、一つのショッキングな事件を思い出していた。

秋も本格化し始める、十月の下旬、私立稲月高校の近くにある大きな紅葉公園にて。

今年は、例年に比べても寒暖の差が激しい年であった為、早くも紅一色に染まったこの公園は、美術の時間の題材としては非常にうってつけであった。

その為、この公園まで受験シーズンの三年生を除き、一、二学年合同で美術の授業がここ、紅葉公園で行われたわけではあるが、その授業の最中に、その事件は起こった。




-や~ん、ラッキー。まさか今日の美術の時間が、一、二学年合同で、礼士先輩と一緒に紅葉公園でお絵描きできるなんて。

放課後以外で、先輩とくっつけるチャンスなんて、中々無いからね。-

「…あ、あの~ハルちゃん?」

「なんですか~♪」

「き、気のせいかな?何かハルちゃん、さっきから物凄く僕と近い様な気が…」

「気のせい、気のせい。

わあ!先輩って、絵もお上手なんですね。

私もそんなに上手く、自分が描けたらなあ。

尊敬しちゃう!」

「は、はあ…」

この授業のテーマは、紅葉の風景と自画像の組み合わせと言う事で、生徒達はめいめい、公園内を散歩して、自画像のバックを飾る背景を探し歩いていた。

春子と礼士は早くから、絵になりそうな見事な紅葉の樹を見つけ、その樹の下にシートを敷き、二人並んで座って筆を使っていた。

だが、春子は絵もそっちのけで、少し困惑気味の礼士にべったりくっ付いて、幸せな一時を満喫していた。
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