元姫と現姫ー嘘に塗れた真実ー





「わた、る……?」



いつの間にか僕の目の前にいた櫂が、震える声で渉の名を呼ぶ。



「何してんだよ…っ」




答えない渉。


ただ、無言で蹴り続ける。




「、あぁ゛!い゛っ」




「っや、やめ、やめろよ…!」




骨が折れるような音がする。


耳を塞ぎたくなる不協和音が、倉庫全体に響き渡る。



櫂が”やめろ”と叫ぶけど、それでも渉は何も言わない。


櫂の叫ぶ声は、縋りつくようにも聞こえて。




「なんでっ、なんで誰も何も言わないんだよ!」




必死に、必死に、叫ぶ。




僕だって、止めたい。





あんな渉を見たくない。





だけど、だけど動かない。



僕がどれだけ止めたいと思っても、思いとは反対に体は動いてくれない。




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