元姫と現姫ー嘘に塗れた真実ー
同時刻
【慧side】
―――同時刻、倉庫にて。
「......渉、止まって」
強めの声で静かに渉を止める。
渉が蹴っていた”男”は、もう動いていない。
意識がないのだろう。
横たわる男に冷ややかな視線を送る。
「なんで止めた?慧」
無言の渉の代わりに櫂が聞く。
それはそれは不満そうに。
......聞かれると思った。
はあ、と息を吐いてから櫂をチラ、と見る。
「別にその男に情けをかけるわけじゃないよ。ただ―――、」
それから、倉庫に視線を移して。
「外で、何かあったみたいだ」
「外で、何か...?」
眉を顰めるの櫂の顔が視界に入った。
一心不乱に男を蹴り続けていた渉と、それに感情が高ぶっていた櫂と伊織は気付かなかったみたいだけど。
―――蓮が倉庫を出ていってから、
倉庫の外で叫び声、それから泣き声が聞こえていた。