幕末カレシ~新撰組に飼われた蝶~
...ハアッ、ハアッ、怖い...!
気付けば私の足は、あの桜の木に向いていた
近くで見れば、さらに大きい桜の木はもう目の前だった
ーーービリッ
「...ッウ...」
近くにあった枝が引っかかり、着ていた着物と一緒に自分の足が傷つき、痛みと共に暖かい血が流れ出す。
足が傷つき、体力も限界でもう走れない。
背後には大きな桜の木。
目の前には...追い付いてきたあの男。
「俺の鈴...綺麗な足が傷ついて...可哀想に...」
ジリジリと迫ってくる影に私はただ怯えていた
「やぁ...」
「鈴...美しく、可愛い俺の鈴。愛してるよ。」
男はそう言って脇にさしていた刀を抜く
"愛してる"幸せを贈るはずのその言葉が、私に黒く重くねっとりと絡みついて苦しめる
「お...客さ...」
溢れ出す涙。意識が朦朧としてくる
「涙を流す鈴も...グアッ!!」
突然グサリという音と男が倒れる音が聞こえた