教室で愛を叫ぶ







そのままニマニマとしていると、不意に聞えたガラリと教室のドアが開く音。






ふとその音に顔を向けると………。






「……遅刻の上サボりとは、いいご身分だなぁ」







なんと顔を鬼にした先生がいた。







昨日のことが少しひっかかるも、いつも通りに笑みを作る。







「私偉いから?重役出勤なのぉー」







「お前はどっかの社長か」








「ううん、先生のお嫁さん。だから先生よりも偉いから、重役出勤」








うっと先生が言葉をつまらせる。







ニンマリと笑って、私は先生に両手を差し出した。







「ダーリン、ハニーが起き上がれないから引っ張って」








「………誰がダーリンだぁぁぁっ!」







「え?もちろん、せ・ん・せ・いっ」








かなりご近所に迷惑な授業妨害をしていると、さっきすれ違った社会の先生が戻ってきた。







愛しの先生はペコリと頭を下げ、社会の先生は私を一瞥してから頭を下げた。







「……ほら、サボらず教室に入れ」







ここは社会の先生の目があるので大人しく立ち上がる。






私も軽く社会の先生に手を降って、先生よりも先に教室に入った。






黒板を見るといつものごとく理解できない数式がズラリと並んでいる。






あいにく、私は文系だ。







だけど先生が理系担当だからわざわざ理系を選んだというこの健気さ。







先生にここまで尽くしてるのにー、と一方的な不満を抱きながらも、自分の席へ座る。







「美海、ずっとあそこいたの?」






ポツリと後ろから問われたので、首を動かすだけで肯定した。







「よし、授業再開すんぞー」







少し遅れて教室に入った先生も、ドアを締めながらも既に視線は私ではなく黒板に向かっていた。







「先生、三行目のところ、引き算間違えてるので答えが全部ズレてますよー?」







ふと、誰かが先生に注意を入れた。








すると先生は黒板消しを持ってその部分をジーッと見つめて。








「あ、4-5が9になってるわ」







あどけなく笑った先生にクラス中から笑いが起き、ヤジが飛んだ。







「先生、中学校からやりなおせよ!」








「よっしゃ、俺でも先生に勝てるとこあったわ」








「先生ってバカだねー!」








どれも愛のあるヤジ。







先生のことを好きなのは私だけで十分なのに。







私に向っては決して見せない、幼い少年のような笑みを浮かべた先生をただ見つめた。







毎日アピールしても、色仕掛けを仕掛けても、先生は何も変わらない。







私は、生徒以下の存在だ。







“ただの問題児” 







先生の興味を引きたいだけなのに、先生の迷惑なお荷物にしかなってない。









はぁ、とやるせない気持ちと共にため息を吐いた。













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