教室で愛を叫ぶ






そして今日は数学の授業はなく、特に先生と合わないまま単純な一日が終わった。









「美海、さすがに制服じゃまずいからさ?服着替えて駅前に5時半に集合でいいー?」








「りょーかい」









そして夏穂は私に要件を伝えるなり、風のごとく教室を出て行った。









待ち合わせの時間は後一時間ちょっと程しかないので準備に困るのだろう。














私だって時間はギリギリだけど、たかが合コンと思っている私は特に急ぐことなく家へ帰宅した。











「ただいまー」










がちゃり、とドアを開けて玄関に入り込む。










すると……。











「あら、美海。おかえりなさい」











玄関にいたお母さんと鉢合わせをした。














「うん、ただいま」









お母さんは40を過ぎているものの、それを感じさせない綺麗さがある。








でも私の小さい時の母の記憶よりかは、ずいぶん雰囲気が柔らかく穏やかになっている気がした。









「美海、お母さんちょっと買い物行ってくるから。希妃(きき)は7時ごろくるそうよ?」









希妃とは、私の姉のこと。









ちなみに私の母の名前は美希(みき)だ。








私の名前の美海も、お姉ちゃんの希妃も。







単純な父が母の名前から取ってつけたもの。







本当に単純で馬鹿なほどお母さん大好きなお父さんだけど、私とは違ってかなり頭の出来た医者だ。









そして母も元看護師で、姉も現在医学部だというのに。









なんで私は文系なうえに馬鹿なのだろうか。









姉に頭の細胞をほとんど奪われた気がしてならない。










まぁ自分が全く勉強をしないだけなんだけどさ。










そんなことを思っていると、ふと夏穂との約束を思い出した。










「あ、お母さんごめん!今日夏穂と遊ぶ約束してるの…」










突然の話にもかかわらず、驚いた顔色一つしないお母さん。









「あら、夏穂ちゃんと?なら今日は遅くなるの?」










まぁ夏穂はよく私の家に遊びに来ていて、お母さんとも顔見知りだ。










そしてどうでもいいことだが、夏穂もああ見えてかなり頭がよく超難関校志望だ。










遊んでいても、メイクにハマっていても、受かりそうに見えるのだから本当にすごい。











「久しぶりに遊ぶからかなり遅くなるかも」











取り敢えず合コンなんていつ終わるかは分からないけど、余裕を持っておきたい。









早く帰るなんて言えば、時間に気を取られるばかりだ。










でもお母さんは私が何時に帰ろうとも心配はしないだろうけどね。











「分かったわ。希妃にも言っておくから。でも希妃、寂しがるんじゃない?」










夜遊びする私より希妃についての心配……か。









ぽつりと心の中に小さな波紋が広がる。









でも表情は笑顔を作って。











「一斗(いちと)くんがいるから寂しがらないって」









一斗とは姉の彼氏。










見た目は派手で顔だけいい男の馬鹿に見えがちだけど、本当は結構頭がいい。










しかも面倒見も良くて優しいときた。









性格もルックスも完璧と言えるような希少な人。










姉と同じかなりの難関大学に在籍している。









でも、一斗は教育学部だけれど。











いつも姉は実家に帰るとき、彼氏である一斗を連れてくる。










母も父も一斗を気に入っているからだと思うし、私に会わせるためだと思うし。









一斗は家に来るごとに必ず私の勉強を見てくれる。









今回は教えてもらえないだろうな、とそのことだけを残念に思った。









「あ、もうこんな時間!美海、リビングにお父さんが帰ってきてるからよろしくね!」










そして母は私に対して興味を失ったかのように慌ただしく家を出て行った。

















< 29 / 62 >

この作品をシェア

pagetop