教室で愛を叫ぶ
「………ほら、そこ腰掛けろ」
放課後、私はかなり憂鬱な気分で数学準備室までやって来た。
ちなみに胃薬はちゃんと飲んできた。
先生に言われた通り、くるくる回るタイプの椅子に腰かけた。
机の真正面に先生は座っている。
「………で?何で呼び出されたかは分かってるんだろーな?」
チラリと先生の顔を見ると、怒りを全面的に出していた。
身がすくむ。
「…………はい」
「大体はお前の連れから聞いた。お前は無理矢理誘われた身だから悪くないとも言われた」
………夏穂。
元を言えば夏穂のせいだけど、夏穂の思いやりに胸が少しだけ暖かくなった。
「でもお前、横に連れてた男は何だ?」
ふと、顔をあげてしまった。
先ほどよりも先生の口調が強くなった気がしたから。
視線がじっとりと絡み合う。
「……あ、一斗は……、元からの知り合いで…」
歯切れ悪く答えてしまう私。
「……へぇ、一斗って言うんだな。かなりイケメンだったじゃないか?」
いや、そりゃ一斗はイケメンですよ~なんて言える雰囲気では決してない。
そして誤魔化すために笑う雰囲気でも決してない。
「………先生の方がかっこいいもん」
何を迷ったのか、私は咄嗟にこんなことを口走ってしまった。
はっと言葉を口から吐いた後に正気に戻った。
………怒られる!と、場違いな発言をした私がそう身構えたけれど。
「……………………そうか」
なぜか想像していた雷は落ちてこなかった。
思わず体の力が抜けてしまう。
「大丈夫、先生の方が何倍もカッコいい。それに一斗、私のお姉ちゃんの彼氏だかんね」
このまま一斗は安全だという事と、先生がカッコイイという事をゴリ押しすれば切り抜けられると判断した私。
「………………そうなのか?」
「そうそう。それに一斗、私の元家庭教師の先生だから数年前からの付き合いだし」
その判断を、間違えた。
「…………へぇ」
少しは柔らかくなっていた先生の声が、一気に固くなってしまった。
待って。
先生はどの私の言葉で気分を害したの。
「………家庭教師、なぁ。……それでその学力か?」
………………あぁ、そっち。
どうやら先生は家庭教師がいても私が馬鹿なことが気に入らないようだ。
そんなこと言われても本当に困るんだけど。
「だって一斗が私の家庭教師にだったの、中一から中三の夏休みの間だけだったもん。その間はそれなりには頭良かったけど、一斗が家庭教師辞めてからは一気にバカになった」
…………まぁ色んな不運なタイミングが重なり、それにずっと好きだった一斗が家庭教師ではなくなるという追い打ちを掛けられて、そのころの私は荒れに荒れていた。
今まで必死にやってなんとか保っていた成績も、全く勉強しなくなったんだから落ちるに決まっている。
「……………ふぅん?」
「一斗が今でも家庭教師やってたら……私、頭良かったのかなぁ」
そう言えば一斗が私の家庭教師を始めたころは、高校1年か2年生だったんだよな、とぼんやりと思った。
だから自分の勉強で精一杯なはずなのに、私の面倒をよく見てくれたと思う。