同調捜査
「なんだ…二課が来たのかよ?」
しゃがみ込んだ二人の頭上から声がする。
「…ええ…呼ばれたので…」
気にする様子も無く麻衣が立ち上がる。
「新人が入ったのか?」
無骨な刑事が導を舐める様に見ている。
「はい…元は指揮を取らせて頂いていましたが…今は心理二課の川島です」
導の挨拶に目の前の刑事では無く、周りに居た関係者達が導に注目する。
「ああ…そう…麻衣…部屋入れるぞ」
「ありがとうございます」
麻衣はアパートの階段を上がる。
「あれ…誰ですか?さっきの…」
「捜査一課の降矢さん」
四階までエレベーターの無いアパートの階段には全てブルーシートが張られていて、風の通りを妨げる。
「捜査一課の配属になったのは最近ですか?」
「色んな事して色んな所に飛ばされるからね…最近まで九州の歓楽街が管轄の署に居たんだけど、必ず手柄を立てて不思議とウチに戻って来るんだよね」
「…そうなんですか…」
風の通らない階段は、体力に自信のある導でも息が上がっていた。
「流石に…四階までは…キツイ…」
麻衣は階段に座り込む。
「大丈夫ですか?ほら…後、少しで着きますよ…ここは部屋の前を覆っただけですから」
「本当に?ブルーシートって見るからに息苦しい…」
麻衣の投げたカバンを拾い、導は持ってやる事にした。
「…軽い…」
書類や捜査に必要な道具を入れた導のカバンに比べると麻衣の物はかなり軽い。
「だって…靴カバーと手袋があれば良いし…携帯と手帳はポケット…あ…お財布…二課に忘れて来た…」
「それにしたって…手錠やピストルは?」
初めて麻衣を上から下までチェックした。
やっと束になる長さの黒髪を一つに纏め、薄手のタートルネックに膝丈のワンピースを合わせる。
アーガイル模様のタイツにヒールの無いパンプスは歩き易さ重視か?
余り捜査に加わる事が無い…と言うが、とても刑事には見えない。
「何?刑事らしく無い…って思った?服装?」
考えていた事を麻衣がオウム返しにしたので導が怯む。
「内勤が多いからね…手錠やピストルも直接は使わないし」
呼吸が落ち着いて来た麻衣は笑う。
「…じゃあ…今回の出動は?」
「猫の手も借りたい…と、言うよりは…藁をも掴む思い」
麻衣が立ち上がる。
「お手上げ状態…ですか?」
「多分ね…一課の皆さんはプライドが高いから、本当は呼びたくないから二課に冷たいだけ。気にしなくて良いから」
にっこり笑って導の横を駆け上る。
現場の部屋の前には、麻衣の言った通り渋い顔で二課の到着を待つ一課の刑事達が集まっていた。