散る頃に咲く花

青葉は涙を流しながら言った。

その笑顔は本物であり、今まで見てきた青葉の笑顔の中で、一番美しく、儚かった。

指を触れたら、消えてしまいそうだった。

しかし栄助は青葉に触れた。

触れることで、青葉の存在を確かめようとしたのかもしれない。

青葉は自分抱き締められていることを理解するのに、数秒かかった。

『もちろんだ』

栄助は呟いた。

『え?』

『必ず、青葉がいるところに帰ってくるから』

栄助は青葉を抱き締めながら、力強く言った。

『はい...!』

青葉も、栄助を抱き締め返した。

奥沢が家の中に入っていく音が、どこか遠くに感じた。
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