迷宮ラブトラップ
「瑞香の話をして。」
机に向かい合って座ると、遼也はそう言った。
けれど瑞香が戸惑っていると、自分の話を始めた。
「七月頃から移転の話で忙しくなって、まわりにいた彼女達はみんないなくなったよ。
一人は鬱になって消えて、一人は旦那の転勤でいなくなって、もう一人はもともとしばらく連絡とってなかったし。
瑞香とも丁度それくらいから歯車が合わなくなったよね。」
他にも女性がいることは知っていたが、三人もいたのか…と瑞香は愕然とした。
遼也は淡々と話を続ける。
「瑞香に対して気になった事はいくつかあるけど、
まず1つは横浜に行ったとき。
たまたま時間が空いたから知人の個展に行った。
瑞香は家庭があるんだから、急に時間が空いたからって今から来いって訳にはいかないでしょ?
楽しい時間を過ごすはずだったのに、瑞香があんなメ ールを寄越したから、楽しめなかった。
あの時送ったメールにも返事をしてこなかったし。
どうせ読まずに捨てたんでしょう?
俺の様子がおかしくなったから、周りも心配したんだよ。
今回も勝手に怒ってフェイスブック切って、自分が傷付きたくないって言ってたけど、こっちだって充分傷ついたよ。またおんなじ事されるんじゃないかって怖いしね。」
「7月は私の一番大変な時期だったの。そんなときに遼也さんに支えてもらえなくて辛くなって…勝手な事言っちゃったから、悪かったとは思ってるけど、でも、それ以前に自分の事愛してくれてない人とエッチはするべきじゃなかったと思う。」
「ほら、それだ。」
遼也がため息をつく。
「どれ?」
「瑞香は自分が特別でないんならって言うけれど、最初っから瑞香は特別だったよ。
他の人とはホテルにも行ったことない。東京に行った時にわざわざ一緒に泊まったことだって特別だったし、ここにいつでも来ていいって言ったのも瑞香だけだったんだ。」
「そんな…」
「まあ、わざわざ言わなかったからわかんなかっただろうけど。」
「だって、私みたいに悩んでる人がいて、自分に行為があるってわかったらおんなじように手を出すって言ったじゃない。」
「それは…、その頃はそう思ってたかもしれないけど、今は恋愛する気ないから。」
最初から恋愛する気ないって言ってたのに。
だから瑞香はずっと、遼也の特別にはなれないんだと苦しんでいたのに。
「瑞香に対して気になった事はまだあるよ。ママ友んとこでリハビリやったとき、子供にひどく怒ってたよね、よっぽどストレスがあるんだろうなーっては思ってたけど、それが子供に対してだけじゃなくて、こっちに向かって来たよね。
それから、お姉さんがバツサンだとか、辛くなって家出した事があるって話も。瑞香にはそんなつもりなくてもこっちは考えるよ。
だって全部捨ててきたとか言われても、こっちは受け止めれないもん。」
「そんなつもりなかったのに…」
「それでもね。」
「あとは指輪。欲しいものない?とは言ったけど、あれは契約になっちゃうから。金物の指輪ってのはちょっと特別だから無理だよね。
前にあげた石のだって、あれは俺が選んだ訳じゃなくて瑞香が欲しいって言うからお守りに渡したんだよ。」
瑞香は悲しかった。
何のために今日はここに来たんだっけ。
こんなに色々ダメ出しをされる為に話をしようと言われたのだろうか。
どうせ戻らないならこんなに言われる必要があるのだろうか。
そもそも石の指輪は瑞香が買うと言ったものを遼也がいいからとくれたものだったはず。
あの時はもう少し、遼也の気持ちもあったと思ったのに…。
姉の話も、自分の話も、するべきではなかったのだろうか。自分という人間を理解してもらう1つとして話した事だったけれど、遼也にとってはマイナス要因でしかなかったという事だ。
「俺への気持ちが強くなりすぎて、優先順位を間違えてるんじゃない?」
「ちゃんとわかってるのに…自分の家庭を守らなきゃいけないのも、遼也さんが仕事や家庭を優先させるのも…、ただ、他の女性と同じってことは、特別じゃないんだって思って…。」
「誰だって欲張りだから自分が一番になりたいんだよ。でもそれで瑞香が旦那と上手くいかないのは良くないって思ってね。だからこの前会ったとき、プラトニックでも我慢できる?って聞いたんだよ。」
瑞香は涙が止まらなかった。自分がした行動で遼也との関係は修復不可能な所まで来てしまった。
遼也がそんな風に考えていたなんて思ってもいなかったし、今更訂正をしても、遼也の気持ちはもう戻らない。
金物の指輪は遼也の気持ちを試す為のものでもあった。
だから本当は遼也が自分からくれると言うのを待つつもりだったのを、あえて言った。
考えておくと言ってくれた事が嬉しかったのに、その頃から既に遼也の気持ちが無かったなんて…。
「これはみんなに言っていることだけど、関係が終わっても身体の調子が悪くなればいつでも来ていいんだからな。身体の事、心配なんだから。」
「旦那と別れる訳じゃないんだから。」
「瑞香は俺に抱かれなくても生きていけるだろ?」
「俺も今余裕ないから。この先どうなるかなんてわからないし、待っててなんて言えないし。」
次の予約のお客さんが来てしまい、そこで話は終わりとなった。
別れ際もいつもと同じ笑顔で見送る遼也に、瑞香はますます混乱した。
どこまでも自分勝手で、ズルくて、意地悪な人。
最初から、私の意見なんて聞く気なかったんだよね?
ほんのり希望を持たせるような事を言いながら、゛今゛を完全否定する。
この先、どうするのが正解なのか、
別れてもなお、迷宮に捕らわれる━━━━。
机に向かい合って座ると、遼也はそう言った。
けれど瑞香が戸惑っていると、自分の話を始めた。
「七月頃から移転の話で忙しくなって、まわりにいた彼女達はみんないなくなったよ。
一人は鬱になって消えて、一人は旦那の転勤でいなくなって、もう一人はもともとしばらく連絡とってなかったし。
瑞香とも丁度それくらいから歯車が合わなくなったよね。」
他にも女性がいることは知っていたが、三人もいたのか…と瑞香は愕然とした。
遼也は淡々と話を続ける。
「瑞香に対して気になった事はいくつかあるけど、
まず1つは横浜に行ったとき。
たまたま時間が空いたから知人の個展に行った。
瑞香は家庭があるんだから、急に時間が空いたからって今から来いって訳にはいかないでしょ?
楽しい時間を過ごすはずだったのに、瑞香があんなメ ールを寄越したから、楽しめなかった。
あの時送ったメールにも返事をしてこなかったし。
どうせ読まずに捨てたんでしょう?
俺の様子がおかしくなったから、周りも心配したんだよ。
今回も勝手に怒ってフェイスブック切って、自分が傷付きたくないって言ってたけど、こっちだって充分傷ついたよ。またおんなじ事されるんじゃないかって怖いしね。」
「7月は私の一番大変な時期だったの。そんなときに遼也さんに支えてもらえなくて辛くなって…勝手な事言っちゃったから、悪かったとは思ってるけど、でも、それ以前に自分の事愛してくれてない人とエッチはするべきじゃなかったと思う。」
「ほら、それだ。」
遼也がため息をつく。
「どれ?」
「瑞香は自分が特別でないんならって言うけれど、最初っから瑞香は特別だったよ。
他の人とはホテルにも行ったことない。東京に行った時にわざわざ一緒に泊まったことだって特別だったし、ここにいつでも来ていいって言ったのも瑞香だけだったんだ。」
「そんな…」
「まあ、わざわざ言わなかったからわかんなかっただろうけど。」
「だって、私みたいに悩んでる人がいて、自分に行為があるってわかったらおんなじように手を出すって言ったじゃない。」
「それは…、その頃はそう思ってたかもしれないけど、今は恋愛する気ないから。」
最初から恋愛する気ないって言ってたのに。
だから瑞香はずっと、遼也の特別にはなれないんだと苦しんでいたのに。
「瑞香に対して気になった事はまだあるよ。ママ友んとこでリハビリやったとき、子供にひどく怒ってたよね、よっぽどストレスがあるんだろうなーっては思ってたけど、それが子供に対してだけじゃなくて、こっちに向かって来たよね。
それから、お姉さんがバツサンだとか、辛くなって家出した事があるって話も。瑞香にはそんなつもりなくてもこっちは考えるよ。
だって全部捨ててきたとか言われても、こっちは受け止めれないもん。」
「そんなつもりなかったのに…」
「それでもね。」
「あとは指輪。欲しいものない?とは言ったけど、あれは契約になっちゃうから。金物の指輪ってのはちょっと特別だから無理だよね。
前にあげた石のだって、あれは俺が選んだ訳じゃなくて瑞香が欲しいって言うからお守りに渡したんだよ。」
瑞香は悲しかった。
何のために今日はここに来たんだっけ。
こんなに色々ダメ出しをされる為に話をしようと言われたのだろうか。
どうせ戻らないならこんなに言われる必要があるのだろうか。
そもそも石の指輪は瑞香が買うと言ったものを遼也がいいからとくれたものだったはず。
あの時はもう少し、遼也の気持ちもあったと思ったのに…。
姉の話も、自分の話も、するべきではなかったのだろうか。自分という人間を理解してもらう1つとして話した事だったけれど、遼也にとってはマイナス要因でしかなかったという事だ。
「俺への気持ちが強くなりすぎて、優先順位を間違えてるんじゃない?」
「ちゃんとわかってるのに…自分の家庭を守らなきゃいけないのも、遼也さんが仕事や家庭を優先させるのも…、ただ、他の女性と同じってことは、特別じゃないんだって思って…。」
「誰だって欲張りだから自分が一番になりたいんだよ。でもそれで瑞香が旦那と上手くいかないのは良くないって思ってね。だからこの前会ったとき、プラトニックでも我慢できる?って聞いたんだよ。」
瑞香は涙が止まらなかった。自分がした行動で遼也との関係は修復不可能な所まで来てしまった。
遼也がそんな風に考えていたなんて思ってもいなかったし、今更訂正をしても、遼也の気持ちはもう戻らない。
金物の指輪は遼也の気持ちを試す為のものでもあった。
だから本当は遼也が自分からくれると言うのを待つつもりだったのを、あえて言った。
考えておくと言ってくれた事が嬉しかったのに、その頃から既に遼也の気持ちが無かったなんて…。
「これはみんなに言っていることだけど、関係が終わっても身体の調子が悪くなればいつでも来ていいんだからな。身体の事、心配なんだから。」
「旦那と別れる訳じゃないんだから。」
「瑞香は俺に抱かれなくても生きていけるだろ?」
「俺も今余裕ないから。この先どうなるかなんてわからないし、待っててなんて言えないし。」
次の予約のお客さんが来てしまい、そこで話は終わりとなった。
別れ際もいつもと同じ笑顔で見送る遼也に、瑞香はますます混乱した。
どこまでも自分勝手で、ズルくて、意地悪な人。
最初から、私の意見なんて聞く気なかったんだよね?
ほんのり希望を持たせるような事を言いながら、゛今゛を完全否定する。
この先、どうするのが正解なのか、
別れてもなお、迷宮に捕らわれる━━━━。