迷宮ラブトラップ
八月
遼也に惹かれていく自分を落ち着かせる為に、瑞香は今月診療所には行かないつもりだった。
それなのに、ある日起きたら首の筋を違えていた。
こうなると普段なら3日は痛みに耐えなければいけない。
けれど、瑞香は確信を持ってしまっていた。
(あの人なら治せる)
と。
幸か不幸か翌日に予約が取れた。
(今回は首が痛くて診てもらうのだから、終わったらすぐに帰れば大丈夫。)
そう言い聞かせて、再び遼也の診療所を訪れた。
首の痛みが強かったので最初は治療に専念する形となった。
しかし痛みが収まってくると、再び遼也は際どい話を始めた。
「昔働いてた職場の子がね、キスをしたら自分がその人とセックス出来るかどうかわかるって言うんだ。俺はキスした時点でもうセックスもありなんだと思うんだけどね。」
「裸の瑞香ちゃん前にして何もしないなんてな。」
「ねぇ、だめ?」
本気とも冗談とも取れるその言葉に、瑞香はどう返したら良いのかわからなかった。
でも、ここで受け入れてはいけないのだと思い、やっとの思いでこう答えた。
「誘いに乗ってはだめなんでしょう?」
「うん。」
確かに遼也はそう言った筈だった。
それなのに、遼也は瑞香にキスをしてきた。
ついばむような唇や舌に甘い痺れを与える夫にはされたことのないキス。
瑞香はやっぱり抵抗出来なかった。
罪悪感も背徳感も瑞香の頭にはなかった。
ただ、遼也にされたキスに囚われてしまった。
「嫌なら言って。」
そう言われても何も言えなかった。
キスをしたあと、暫く遼也は瑞香の胸に頭を預けていた。
そして思い出したように次の客が来るからと片付けを始めた。
瑞香も着替えを済ませ、慌ただしく別れを告げた。
別れ際はハグだけだった。
(ズルい人だ…)
瑞香は家に帰っても遼也の事ばかり考えていた。
遼也は予め瑞香に自分の価値観を伝えていたため、瑞香は遼也に何も求める事が出来ない。
もちろん瑞香だって夫や子供と別れる気はない。
けれど、これが遊びかと問われると違う気がした。
(私はもう一人大事な人が出来てしまった。
けれど、彼にとって私は何なんだろう?
やはり遊びなのだろうか?
私以外にも関係を持っている人がいるのだろうか?
私のママ友の中にも彼と関係を持った人はいるのだろうか?)
聞きたいことは山のように出てくる。
でも、それを聞いても良いのかさえも、瑞香にはわからなかった。
夫のお盆休みに家族旅行を予定していた。
それなのに前日から娘が高熱を出してしまい、やむ無く瑞香は自分と娘が残り、代わりに夫の父母と旅行に行くことを提案した。
夫も娘を心配してその提案を受け入れ、早朝から息子を連れて父母と共に出掛けて行った。
笑顔で送り出したものの、途端に瑞香は不安になった。
娘を旅行に行かせなかったのは母として正しい選択だった。
けれど娘と2人きりで、何かあった時自分は対処仕切れるだろうか。
言い知れぬ不安感に、ひたすら瑞香は娘の回復を願っていた。
幸い娘の熱はすぐに下がって、母の心配をよそに娘は元気に遊び回っていた。
安心した途端に瑞香の心によぎったのは遼也の顔。
無償に遼也に逢いたくなった瑞香は娘を連れて遼也の診療所へと向かった。
(会えるかわからない。無理だと言われたらそのまま帰ろう。)
一か八かのつもりで瑞香は遼也にメールを打った。
そして返って来た答えは、YESだった。
「どうぞ。」
静かに迎え入れられた室内で、瑞香はポツリポツリと事の経緯を話した。
遼也は静かに話を聞いた後、優しく瑞香の頭を撫でた。
そしてこの間と同じ様にキスをしてきた。
(間違いじゃなかった…)
瑞香はぼんやりとそんな事を考えていた。
あまりに突然の事で、もしかすると自分の思い違いだったのではとさえ思えていたのだ。
「嫌?」
遼也に尋ねられて、瑞香は首を振った。
「お互い家庭があるけど、それはそれ。これはこれでいいんじゃない?」
遼也の言葉に、瑞香の心が麻痺させられていくようだった。
「会ってるときに楽しかったら、それでいいんだよ。」
遼也の声が、触れてくる手が心地よい。
ぼんやりとそれでも良いのかもと瑞香は思ってしまった。
「次に2人きりで会ったら、一線越えちゃうかもな。」
溜め息のような呟きに、瑞香は甘い期待のようなものまで感じてしまっていた。
それなのに、ある日起きたら首の筋を違えていた。
こうなると普段なら3日は痛みに耐えなければいけない。
けれど、瑞香は確信を持ってしまっていた。
(あの人なら治せる)
と。
幸か不幸か翌日に予約が取れた。
(今回は首が痛くて診てもらうのだから、終わったらすぐに帰れば大丈夫。)
そう言い聞かせて、再び遼也の診療所を訪れた。
首の痛みが強かったので最初は治療に専念する形となった。
しかし痛みが収まってくると、再び遼也は際どい話を始めた。
「昔働いてた職場の子がね、キスをしたら自分がその人とセックス出来るかどうかわかるって言うんだ。俺はキスした時点でもうセックスもありなんだと思うんだけどね。」
「裸の瑞香ちゃん前にして何もしないなんてな。」
「ねぇ、だめ?」
本気とも冗談とも取れるその言葉に、瑞香はどう返したら良いのかわからなかった。
でも、ここで受け入れてはいけないのだと思い、やっとの思いでこう答えた。
「誘いに乗ってはだめなんでしょう?」
「うん。」
確かに遼也はそう言った筈だった。
それなのに、遼也は瑞香にキスをしてきた。
ついばむような唇や舌に甘い痺れを与える夫にはされたことのないキス。
瑞香はやっぱり抵抗出来なかった。
罪悪感も背徳感も瑞香の頭にはなかった。
ただ、遼也にされたキスに囚われてしまった。
「嫌なら言って。」
そう言われても何も言えなかった。
キスをしたあと、暫く遼也は瑞香の胸に頭を預けていた。
そして思い出したように次の客が来るからと片付けを始めた。
瑞香も着替えを済ませ、慌ただしく別れを告げた。
別れ際はハグだけだった。
(ズルい人だ…)
瑞香は家に帰っても遼也の事ばかり考えていた。
遼也は予め瑞香に自分の価値観を伝えていたため、瑞香は遼也に何も求める事が出来ない。
もちろん瑞香だって夫や子供と別れる気はない。
けれど、これが遊びかと問われると違う気がした。
(私はもう一人大事な人が出来てしまった。
けれど、彼にとって私は何なんだろう?
やはり遊びなのだろうか?
私以外にも関係を持っている人がいるのだろうか?
私のママ友の中にも彼と関係を持った人はいるのだろうか?)
聞きたいことは山のように出てくる。
でも、それを聞いても良いのかさえも、瑞香にはわからなかった。
夫のお盆休みに家族旅行を予定していた。
それなのに前日から娘が高熱を出してしまい、やむ無く瑞香は自分と娘が残り、代わりに夫の父母と旅行に行くことを提案した。
夫も娘を心配してその提案を受け入れ、早朝から息子を連れて父母と共に出掛けて行った。
笑顔で送り出したものの、途端に瑞香は不安になった。
娘を旅行に行かせなかったのは母として正しい選択だった。
けれど娘と2人きりで、何かあった時自分は対処仕切れるだろうか。
言い知れぬ不安感に、ひたすら瑞香は娘の回復を願っていた。
幸い娘の熱はすぐに下がって、母の心配をよそに娘は元気に遊び回っていた。
安心した途端に瑞香の心によぎったのは遼也の顔。
無償に遼也に逢いたくなった瑞香は娘を連れて遼也の診療所へと向かった。
(会えるかわからない。無理だと言われたらそのまま帰ろう。)
一か八かのつもりで瑞香は遼也にメールを打った。
そして返って来た答えは、YESだった。
「どうぞ。」
静かに迎え入れられた室内で、瑞香はポツリポツリと事の経緯を話した。
遼也は静かに話を聞いた後、優しく瑞香の頭を撫でた。
そしてこの間と同じ様にキスをしてきた。
(間違いじゃなかった…)
瑞香はぼんやりとそんな事を考えていた。
あまりに突然の事で、もしかすると自分の思い違いだったのではとさえ思えていたのだ。
「嫌?」
遼也に尋ねられて、瑞香は首を振った。
「お互い家庭があるけど、それはそれ。これはこれでいいんじゃない?」
遼也の言葉に、瑞香の心が麻痺させられていくようだった。
「会ってるときに楽しかったら、それでいいんだよ。」
遼也の声が、触れてくる手が心地よい。
ぼんやりとそれでも良いのかもと瑞香は思ってしまった。
「次に2人きりで会ったら、一線越えちゃうかもな。」
溜め息のような呟きに、瑞香は甘い期待のようなものまで感じてしまっていた。