志ーこころー 【前編】─完─
あたしは考える
坂本さんに出会えたと言う偶然は、とてもじゃないけれどあたしにとって大きな、重要なこと
確かに重要だけど……
今ここでちゃんと階段を踏んどかないと、あたしは裏切り者確定となるであろう
志乃「(これを屯所の誰かに見られれば……)」
あたしは帰れなく………………………………
…………………………ハハッ
そうだった。あたし、もうあの場所に帰れないんだったっけ?
志乃「ハハハハッ………………」
乾いた笑いが出る
それを怪訝そうに見つめる坂本さん
坂本「……だめ……じゃったかのぉ…………」
あたしの顔色を窺うように、慎重に言葉を選んで言う
ここで、はいと言ったら、あたしはもう、ほんとうに戻れないかもしれない
ここが分岐点……
あたし…………
……いい。
もういい。
志乃「喜んで」ニコ
あたしの口から出た言葉は、意外にも明るくて、表情も硬くなることなく笑えた
どうやらあたしはここへ来てから、嘘をつくのが上手になったみたいだ