志ーこころー 【前編】─完─
志乃「あたし、着物なんて必要ない。
ただで古着が貰えるんだ。
それと、迷子じゃない。殺すぞてめぇ」
つん、とそっぽを向きながら、言ってやった。
最後に毒を添えることを忘れずに。
沖田「わがままはだめですよ〜?
志乃さん、あなた一応監察方希望なんでしょう?
時には街娘の格好をしてもらわなければいけない時だってあるんですから。」
……ふむ
それもそうだな。
なんかそう言われてみればそんな気もしてきたぞ。
それに、と沖田。
沖田「今日はあなたの歓迎会をするんですよ、志乃さん。」
ーーぇ、
あたしは、思いがけない言葉に目を点にする。
志乃「……あたしの……?」
沖田「はい。もちろんです」ニコ
キョトンとしたあたしに、沖田はちょっぴり笑ってみせた。
身元がわからない、謎の人間
意地っ張りで、強情っ張りで、おまけに口が悪い。
しかも、普通じゃない、真っ赤な目を持つあたし。
まさか、このあたしが歓迎されるなんて。
心があったかいって、きっと今のあたしのことを言うんだろうな……
泣きそうなのを悟られないように上を向く。
志乃「……買うのなら、汚れが目立たないようなやつがいい……」
震えそうな声を、けれども一生懸命平静を装って言った。
あたしが今言える、精一杯感謝の言葉を伝えた。