祭囃子の夜に
翌朝、あまりの眩しさに目が覚めた。
目を瞑って無理に眠ろうとした翔一だったが、やはりなかなか寝つけず、結局いつ眠ったのかさえ覚えていない。
頭がぼうっとするあたり、さほど眠れていないのは明らかだ。
「ほら、起きろ愚弟! 朝飯!」
ううんと目を擦りながら半身を起こすと、あかねが盛大に障子を開けて窓の前で仁王立ちをきめていた。
ぼやけた視界に映るあかねが一瞬本当に仁王像に見えた事は、心の中で留めておく。
「……あい……」
ここで「あと五分」などと言おうものなら、確実に寝技(経験から推測するに恐らく腕ひしぎだ)を掛けられて別の意味でベッドに落ちる事になる。
閉じかける瞼を必死に引き離してベッドから出て立ち上がり、もそもそと服を直した。
「アンタ、服着替えないで寝てたの?飯食う前にちゃんと着替えて来な」
言われて、昨日の私服のまま眠っていた事に気付いた。
着ているものに気を回すことも出来ずに悶々としていたらしい。
「……あい」
ぼんやりと返事をすると、あかねは何やらぶつくさ言いながら部屋を出て行った。
あかねが居なくなると、室内に静けさが戻る。
朝の陽ざしは実に穏やかで、ああそう言えばいつもは朝練に向かう時間だなとつい昨日までの慌ただしい朝を思い出した。
黙って逃げ帰って来た現実が急に目の前まで迫って来るようで、ぶんぶんと頭を振るう。
「翔一! はやくしな!」
居間からあかねのがなる声が聞こえて、慌てて服を引っ張り出した。
一方で、どうしてそんなに急かされなければならないのかと、多少ふくれっ面だ。
全くねぇちゃんはいつもいつも命令口調で、まるで本当に鬼か何かだ。今日なんか髪をお団子にひっつめちゃってさ、釣り目が余計に釣って見え――
と、そこまで文句を連ねてみて気付いた。
「今日、時例祭だ……」
連休初日の日曜。時例祭が行われる日だ。
あかねの恰好もいつもの作業着では無く、鯉口シャツに黒股引きだったと夢現の情景を思い起こす。
松岡左官店は祭り好きが集まっており、従業員の実に過半数が神輿連に所属している。
もちろんあかねも例外では無く、彼女は太鼓連に所属して祭囃子の篠笛を担当している。
神輿連や太鼓連に所属していない従業員も、神輿の周りでやいのやいの声を掛ける事を一年の楽しみとしており、時例祭の日は従業員総出で祭りに挑むのが毎年の恒例となっていた。
今日は母も忙しいだろうなと考えて、翔一は早く朝食を済ませてしまわなければと着替えを急いだ。
神輿を担いでからやって来る従業員たちの食事は、決まって三重子の担当だ。
毎年前日から煮しめやちらし寿司の準備を行って、当日も酒やなんやとてんてこ舞いになる事を知っている。
初めのうちは飲めない従業員が手伝ったりもするのだが、飲めないというのに飲まされたりと、徐々に配膳の人手が無くなっていくのが常なことも当然知っていた。