祭囃子の夜に

 昨日、あかねの車に乗った時、あの時からあかねは感付いていたに違いない。

 そしてガレージに車を停めて自分が門の前でうろうろしている間に、弟の様子がおかしいと母親に電話でもして知らせたのだろう。

 きっと二人とも、自分に考える時間を与える選択をしてくれたのだ。

「それから……まこっちゃん。寮で、皆に謝ったって言ってた。きっと戻ってくるから、だから少しだけ時間下さいって」


 いいですね、見放さない人が居てくれて。


 テツに対して思った言葉が蘇る。

 あかねは、どこまでも見放さない人間だ。

 三重子だって自分の事を見放したりなんかしない。

 それに、誠も。

 誠は、あの時唯一、自分を追いかけてきてくれた。

 辛い時も一緒に乗り越えてきた、解り合える友人だったはずだ。


 ――そんな事、知っていたのに。


「だからしょうちゃん、野球辞めちゃダメだよ。……ダメだよぉ……」

 結衣だって、こうして自分の為に一生懸命話してくれて、泣いてくれているではないか。

 好きなことから逃げるのも、気付かないフリももう止めよう。

 止めなければ、きっと後悔する。

 ぽろぽろと涙を流す結衣をがしりと抱きしめて、そしてすぐに肩を掴んで引き離した。

「しょうちゃ……」
「……ごめん、俺、戻る!」

 全力で走る翔一の後ろ姿を見つめながら、結衣は涙を拭って僅かに微笑んだ。

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