祭囃子の夜に
「ただいま!」
息を切らせて帰宅した翔一は、玄関で勢い任せに靴を脱ぎ、バタバタと忙しなく自室へ向かった。
そのままバタンと襖を開けて、明かりも点けずに枕元に放置していた携帯の電源を入れる。
起動が終わった画面には、着信と未読メールの通知が一件ずつ表示されていて、翔一は一も二もなく未読メールの表示をタップした。
題名は無題。差出人は坂井誠だ。
電話出なかったから、メールで。
取りあえず早く戻って来い。みんな心配してる。
それと、お前どうしてレフトにコンバートされたか考えた事あるか?
お前打撃のセンスあるんだよ。
監督はきっと、ウチの環境ではピッチャーよりそっちの方が向いてるって思ったからコンバートしたんじゃないか。
そこまで読んで、改めて自分の傲慢さを思い知らされた。
レフトというポジションは、守備力は高くないが打撃力のある選手が配置される事が多い。
自分に打撃のセンスがあるなど、露にも思っていなかった。
ピッチャーから外された事ばかりが先行して卑屈になり、監督はどうにもならない自分を仕方なくレフトへコンバートしたのだと思っていた。
監督も、自分の事をしっかりと見てくれていたのだ。
周りの気持ちを無視していた事を痛感して、涙がこぼれる。
ぼやける視界のまま、翔一は文章の続きを追いかけた。
だから腐ってないで戻って来い。
このままだとお前、
最後の文章は、昨日誠が言いかけたのを遮ってしまった言葉の続きだった。
――このままだとお前、野球が嫌いになっちまうぞ。
「そうだな……。野球、好きなんだよ、俺」
握りしめた携帯から、誠の優しさが伝わってくるようだった。
「何やってんだ、電気も点けないで」
慌てて涙を拭って振り返ると、パチリと蛍光灯の明かりが室内を照らした。
お団子にひっつめた髪はそのままで、ジャージに着替えたあかねが襖の竪框にもたれてこちらに視線を向けていた。
「ねぇちゃん、俺……!」
「ほら」
寮に戻るよ、と言い終わらないうちに、あかねが何かを投げて寄越す。
受け損じないように慌てて手を伸ばして抱きかかえたそれは、翔一のボストンバッグだった。
「母ちゃん! 愚弟が戻るってさ!」
言ってあかねはニヤリと愚弟に笑んで見せた。
どうやら帰り支度を整えてくれていたらしい。
戻ると言い出すタイミングまでお見通しかと、思わず苦笑いが漏れた。
「翔一」
あかねに呼ばれてやって来た三重子が、優しく微笑む。
「頑張んなさい」
激励の言葉はそれだけだったが、三重子の気持ちは十分すぎるほど受け取ることが出来た。
「かあちゃん、姉ちゃん。ごめん。本当にごめん。ありがとう。俺、頑張るから」
今まで言えなかった事が自然と口に出る。
ボストンバッグを抱えながら、翔一は深く深く頭を下げた。
「翔一。戻ったら、きっともっと辛いと思う。でも、逃げんな。逃げたくなったら、そん時は逃げる前にちゃんと話しな」