祭囃子の夜に
「もう、楽しくないのか。野球」
理不尽な怒りをぶつけられた誠の声は、静かだった。
もう、その顔を見ることが出来ない。
野球が楽しくなくなったのか。
胸に刺さる質問に、翔一は俯いたまま、ともすると泣き出しそうな震える声で答えた。
「楽しくなんか、ない」
それだけ言い捨てるのが精一杯だった。
すぐに踵を返して、誠の視線を振り切る様に部室棟まで走る。
その場に残された誠は、肩を落として落ちたグローブを拾い上げた。
丁寧に土埃を払って大事そうに小脇に抱える。
グラウンドに戻ろうとして、再び翔一の背中を視線で追いかけたが、その姿は既にくねった道の向こうへ消えてしまっていた。