祭囃子の夜に
そういった外見だけで別段何を思った訳でもないが、入りたての頃のテツの様子はそれとなく母から聞いていた。
仕事中に断りもなく携帯で誰かとバカ話をしていたり、気付くとふらふらと現場近くの路地へ入り込んで勝手に休憩をとっていたりと、あかねの雷の直撃を幾度となく受けたらしい。
「なるほどね。出来ない部下を持つと大変だな」
「……あのね」
世間話の延長で何気なく口に出したつもりだった翔一は、返ってきたあかねの口調の強さにたじろいだ。
何かマズったか。
「アンタそれ、テツに面と向かって言えんの」
「え……」
「だから。アンタはテツにお前は出来ない奴だなって言えんのかって聞いてんだよ」
思ってもいなかった方向から返され、思考回路が繋がらず言葉が出てこない。
そんなつもりで言ったのではと言いかけて、自分の言葉を思い出して口を噤んだ。
確かに思ったからだ。テツは何かと面倒を起こす、手に余る人物だと。
「確かにテツはちょっと厄介なとこがあるけど、それでも最近は前より仕事に真面目に向き合うようになってんだよ。他のやつは知らないけど、少なくともあたしは本人に言えないようなそういう事は思わないし、誰にだって言わないようにしてる。父ちゃんもそうだった」
父ちゃんもそうだった。その言葉が一際胸に刺さる。
良く知りもしねぇで人を悪く言う奴は、自分が一番悪いってことに気づいてねぇ。そいつの方が大馬鹿なんだ。
生前の父の姿が思い出されて、いっそう嫌な痛さで心臓がきゅっと縮こまった。
「アンタはテツの何を知っててそんな事言えんだよ。アンタは他人をそうやって言えるほどしゃんとしてんのか」
一通り言い終えたのか、あかねはそれ以上は何も言わずに軽トラを転がし始めた。
あかねはいつだって真っ直ぐだ。道をぶらさず真っ直ぐ前を見据えて、そして背筋を伸ばして生きている。
自分があかねを――特に高校に入ってから――苦手なのは、その真っ直ぐな姿勢がなんだか妙に怖いからなのだと気付いた。
自分には無いその実直な様が、自分を責めているようで怖いからだ。
結局、家に辿り着くまで姉弟は言葉を交わすことなく、車内にはむっつりとした空気だけが居座り続けた。
仕事中に断りもなく携帯で誰かとバカ話をしていたり、気付くとふらふらと現場近くの路地へ入り込んで勝手に休憩をとっていたりと、あかねの雷の直撃を幾度となく受けたらしい。
「なるほどね。出来ない部下を持つと大変だな」
「……あのね」
世間話の延長で何気なく口に出したつもりだった翔一は、返ってきたあかねの口調の強さにたじろいだ。
何かマズったか。
「アンタそれ、テツに面と向かって言えんの」
「え……」
「だから。アンタはテツにお前は出来ない奴だなって言えんのかって聞いてんだよ」
思ってもいなかった方向から返され、思考回路が繋がらず言葉が出てこない。
そんなつもりで言ったのではと言いかけて、自分の言葉を思い出して口を噤んだ。
確かに思ったからだ。テツは何かと面倒を起こす、手に余る人物だと。
「確かにテツはちょっと厄介なとこがあるけど、それでも最近は前より仕事に真面目に向き合うようになってんだよ。他のやつは知らないけど、少なくともあたしは本人に言えないようなそういう事は思わないし、誰にだって言わないようにしてる。父ちゃんもそうだった」
父ちゃんもそうだった。その言葉が一際胸に刺さる。
良く知りもしねぇで人を悪く言う奴は、自分が一番悪いってことに気づいてねぇ。そいつの方が大馬鹿なんだ。
生前の父の姿が思い出されて、いっそう嫌な痛さで心臓がきゅっと縮こまった。
「アンタはテツの何を知っててそんな事言えんだよ。アンタは他人をそうやって言えるほどしゃんとしてんのか」
一通り言い終えたのか、あかねはそれ以上は何も言わずに軽トラを転がし始めた。
あかねはいつだって真っ直ぐだ。道をぶらさず真っ直ぐ前を見据えて、そして背筋を伸ばして生きている。
自分があかねを――特に高校に入ってから――苦手なのは、その真っ直ぐな姿勢がなんだか妙に怖いからなのだと気付いた。
自分には無いその実直な様が、自分を責めているようで怖いからだ。
結局、家に辿り着くまで姉弟は言葉を交わすことなく、車内にはむっつりとした空気だけが居座り続けた。