僕等の歌声
         ***
  


帰りの会が終わるチャイムが教室に響き渡ると同時に次々と部活に行くものやそそくさと帰宅する生徒。
5分足らずで、2-2の教室は私以外誰もいなくなった。
4か月前、なにも部活に入っていない私は毎日誰もいない教室を自由に使っていた。
といってもやることはただ1つ。

「ひさしぶりに、やるか。」

私はそう一言つぶやくとスクールバッグの中から最新型のウォークマンを取り出し、ヘッドフォンを頭につけた。
手慣れた手つきでウォークマンを操ると、再生ボタンを押すとカラオケ音源がヘッドフォンから勢いよく流れてくる。
そう、私がこの教室で一人きりでやることとは、『歌うこと』
体が弱くて外で遊んだりすることなんて到底できない私にとっては最高の暇つぶし。
今人気の曲であったり、古い懐かしの曲であったり特にジャンルが決まってるわけでもなくその時の気分で曲が決まる。
今日は久しぶりの学校だから特別な曲を歌うことにした。
誰も知らない私だけの歌 私自身が作曲し歌詞を手掛けた曲
題名もついていなければ、歌詞はあいまいだったりめちゃくちゃな曲だけれど、たぶん一番自分に合ってたりするんじゃないかと思う。
目をゆっくりと閉じて息を大きく吸い込む。
誰もいないとはいえ学校だからあまり大きな声は出せないが教室に響くように歌いだす。
私は自分のことは、好きとは言い難い。でも歌ってる時は自分の声がなぜか心地よく聴こえる。

「ガタッ」

物音に反応し、反射的に音の方向に勢いよく顔を向ける。
そこに立っていたのは、猫のように少し釣り上がった目、瞳の色は色素が薄くミルクティーのような白が入った茶色をしている。髪色は真っ黒なのに肌は真っ白。
絵から飛び出してきたようなきれいな顔をした男の子だった。
私は、この男の子に見覚えはなかった。4か月前にもこんな子はいなかったはず。
「お前、名前は?」
2人しかいない静かな教室に、予想していた声とは全く違う低い声がよく響いた。
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