22年前のワシントンDC高校生
プロローグ

1.

 はじめての海外旅行は格別である。
 おそらく、どの街が、「最初の海外渡航先」であろうと、その土地自体に思い入れが深くなるものであろう。わたしの場合、飛行機すらはじめての経験だったのだから、なおさらである。

 はじめての海外旅行は高校1年から2年に進級するはざまの春休みであった。
 いまでこそ、若い頃から家族で海外旅行に出かける家庭が、中流家庭でもごくごく自然に行なわれているが、二十年以上前の当時は、周りに海外旅行に出かけたことがある高校生などほとんど見かけなかった。少なくとも、公立高校に通うわたしのクラスメイトには皆無である。そんな中で育ち、まさか自分が、海外に行ける日がくるな ど、思いもしていなかった。
 これはひとえに、高校1年生のときの同級生のおかげである。

 Kちゃんの親戚は外交官である。世界を転々としている、という話を、ふだんからよく聞いていたのだ。

「いいなあ、うらやましいなあ」
 と、なにげないあいづちに、Kちゃんは、
「今は、アメリカにいるみたいだけど、よかったら行ってみる?」
 となんとも気軽に声をかけてくれたのだ。
 
 突然降って湧いたアメリカである。
 日曜洋画劇場で、誰もかれもが銃をバンバンと鳴らし、車が信じられない高さで飛び、あらゆるものが爆発しているあのアメリカである。

「行く? 行っていいの? 本気?」
 何度もたしかめたものである。それほど信じがたいことだったのだ。

 気軽に尋ねてきた彼女とて、海外旅行などはじめてのことで、アメリカ在住のおじさん、おばさん、従妹に誘われてはいたものの、まさか、本当に行けるとは思っていなかった、と後で話してくれた。
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