幕末の月
「お前は長州の人間か」
「違いますっ」
即答。
だってこの人、目が怖い。
そうです、なんて答えたら斬りかかってくる気がする。
「ま、まあまあトシ。そんな怖い顔をするな」
それを見兼ねてか、隣にいたガタイのいい男が口を挟む。
「俺は近藤勇。新撰組局長だ」
新撰組…。
やっぱり、ここは江戸時代なんだ。
あまりに現実離れした状況に、逆に冷静になってしまう。
「そうだな、朝原くんと言ったか。
君、剣はできるか?」
「え?いや、まあ、扱うくらいなら…」
何を考えているんだろう。
「じゃあ、ここで暮らす代わりに隊士として働いてくれるか」
え?
「えっと、…え?」
「その様子だと、帰るところが無いのだろう。何となくわかる」
いや、全くその通りなんですけど、
大事なことを1つ言っていない。
「…私、その、未来から来まして…」
恐る恐る言ってみると、皆口を開けている。
が、
「おお、そうか。まあ何でもいい」
近藤さんには軽く流された。
…何でもよくなくないですか?