幕末の月
初めて持った刀の重みは、両腕にずっしりとのしかかる。
…本当に、こんなことになるなんて。
この現在を2時間前、いや半年前の私は予想できただろうか。
しばらく触っていなかった髪をまとめて抹茶色の袴を着、刀を構えて斎藤一さんと睨み合うこの現在(ミライ)を。
「…あの、本当に真剣でやるんですか?」
私が何度そう聞いても土方さんは、本気でやらねぇと意味がねぇだろう、の一点張りだ。
「安心しろ。斎藤は峰しか使わねぇ。お前は殺す気でいけよ」
私がどの程度刀を扱えるか、試すらしい。
悪趣味な。
「始め!」
もちろん刀なんて持ったこともない。
そんな私の唯一の勝機は…
「…!」
一気に間合いを詰め、肩から斜めに刀を振り下ろす。
が、それは難なく回避され、今度は斎藤さんが攻めに転じる。
「っ、」
一撃一撃が正確で重く、隙も無い。
攻防を繰り返す中、一瞬出来た横腹の隙に入りこもうと刀を前に突く。
貰った…!
「…っ!」
カラン、と刀が落ち、背に壁が当たる。
私の首のすぐ横には刀が刺さっており、斎藤さんがその刀を握っている。
「そこまで!」
土方さんの声で現実に引き戻される。
「っ、はあ。斎藤さん、強いですね」
「一番強いよ。いきなり一くんなんて、土方さんもずいぶん意地悪だなあ」
斎藤さんの剣は、ただ教えの通りに動くだけじゃなく、どんな事にも対応できる柔軟性を持っている。
本物の殺し合いに慣れている、プロ。
「でも、君も強いね。普通は5秒とかからずに倒されちゃうのに。…河原でも、僕の攻撃一度かわしたでしょ?」
ばれてた。
この沖田という人たちに助けられた直後、背後から殺気を感じて一度はかわせたが、相手の方が一枚上手だった。
それでまんまと気絶させられたのだが。
「朝原くん!斎藤相手に少しでも剣を合わせられるとは、見込んだ以上だな。よし、今日から君を正式に隊員として迎え入れよう」
近藤さんの鶴の一声で私の入隊は決まった。