幕末の月



「あっ…」



袴につまづいてこけそうになったのは、歩き始めて直ぐのことだった。



沖田さんの後ろを歩いていたけど少し列から抜け、人のいない路地に入った。





しゃがんでみると、裾の糸がほつれていた。



このままにしておいても良いけど、これ以上つまづかないように結んでおこう。











「…!」













ガッ










反射的に頭上に持って行った刀の鞘に何かが当たる音。




そして




「くっ…⁉︎」










悔しそうに、そして驚いたように呻く男の声。















男は刀を思い切り私の首元に振り下ろしてきた。



殺気に気付いていなければ確実に首が飛んでいただろう。




両手で力いっぱい握っているのか、立つことが難しい。



仕方なくかがんだ体勢のまま男を睨む。




一瞬怯んだが、すぐに力を入れ直す。







どう見ても不利なこの状況。




少しでも私が動けば陰に隠れている”もう1人”があっという間に私の首を刎ねる。



かがんで、しかも刀が鞘に入ったままの状態からの一気に2人相手はさすがに無理がある。













かと言ってこのまま殺られるような私じゃない。











一か八か、














グッと足に手に力を入れ、男の刀を押し返す。




と同時に刀を抜いて首元を狙う。













が、このままじゃ…!










もう1人が動くのがわかった。













どうする…!
















「…」






「なっ、…え?」










素っ頓狂な声を出したのは、私。



刀を抜こうとしたもう1人の首元にスッと刀を当てたのは、












浅葱色のダンダラ模様が入った羽織を着た










「沖田さん…⁈」









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