CHECKMATE
その夜、自宅へと戻った千葉と夏桜。
「先に風呂に入って来る」
「あ、はい。ごゆっくり」
夏桜がキッチンで夕食を作っている間に、千葉は浴室へと向かった。
いつもと何ら変わらない光景なのだが、この日の千葉は少し違った。
三國に言われた事が気に掛かり、かと言って本人に尋ねた所ではぐらかされるのが目に見えているだけに。
千葉は風呂に入ったふりをして、夏桜の様子を窺う事にしたのである。
上着を脱ぎ、ズボンも脱いだ状態で脱衣所から浴室へと足を踏み入れる。
そして、水栓を捻り、器用に髪だけ軽く濡らして……。
そして、如何にもシャワーを浴びてるように見せかけて、入口のドア脇に身を潜めていた。
すると、2~3分が経った頃。
物音を立てないように静かに脱衣所の扉が開かれた。
勿論、中を覗いているのは夏桜である。
その気配を察知した千葉は、無意識に眉根を寄せていた。
夏桜は千葉が浴室にいる事を確認して、静かにドアを閉めた。
千葉はその気配も察知し、水栓を開けた状態で静かに脱衣所へと出たのである。
すると、千葉の眉間は更に深いしわが刻まれた。
それは、ドアの上部の隙間に仕込んでおいた白い小さな紙の破片が、脱衣所の足拭きマットの上に落ちていたのである。
内側に引くタイプのドアである為、開けた拍子に風圧で脱衣所内に飛ばされた事になる。
それは、千葉以外の人間がドアを開けた事を示していて。
勿論それが、夏桜であると確定された事実であった。