CHECKMATE


千葉は眉間にしわを寄せ、瞳はより一層鋭さが増した。

「例え健診がちゃんとしたものであったとしても、全員が全員、無排卵周期症だなんてあり得ない」
「じゃあ、何か?……健康な人も飲まされてたって事か?」
「たぶんね」

怒りが滲む視線を向けられた夏桜は、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

夏桜は婦人科の問題をどこまで話すべきか迷っていた。
夫婦という形で、少なからず千葉にも迷惑をかけている。
それを捜査の一環でと言ってしまえば、身も蓋もない。

だが、潜入捜査の理由を詳しく明かさなかったのにも関わらず、千葉は文句一つ言わず付き合ってくれている。
それに、男性にとって屈辱的な検査を受けてまで……。

夏桜と同じ医師資格を持ち合わせている人ならば、ここまでの話で大体の察しが付くかもしれない。
けれど、千葉は違う。

婦人科に捜査とはいえ、初めて足を踏み入れたような者だ。
事細かく説明しなければ、理解出来ないかもしれない。

しかしそれでは、これから夏桜がしようとしている事を全て話さなければならないのである。

夏桜は千葉の瞳の奥を推し量り、彼の忠誠心、正義感、そして何より温かみのある優しさに賭ける事にした。

「例の病院で処方されていた薬は、女性ホルモンを整える薬なの。だから、長期間または大量摂取さえしなければ、命に関わることは無いわ」
「例え害にならなくとも、健康な人に処方すること自体、いかがわしいだろ。意図は何だ?仮に、飲み続けることで、妊娠し易い体質になったとして、売春目的だったとしても、ホステスを妊娠させる意味が分からない」
「そうね、一輝の言う通り。現に、絵里さんの同僚は誰一人妊娠した人はいなかったそうよ」
「じゃあ、目的は何だ」
「だから、それを調べるために病院に通ってるんじゃない」

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