CHECKMATE


千葉の仕事に対する熱意を知っているから、夏桜は嘘を吐きたくなかった。
だからこそ言葉を選びつつ、ギリギリのラインで状況を説明したのである。

「この間の診察の時に、あの医者から薬が処方されただろ」
「…………ん」
「飲んでるのか?」
「………………ん」
「それで、体調に変化があったか?命に別条がなくても、お前には持病があるだろ」
「それは大丈夫」
「………言い切れるのか?」
「うん。薬を飲んだからと言って、持病は悪化しないわ」
「それなら、いいけど。でもできる事なら、出来るだけ早くに証拠を掴んで、あの病院に関わるのはやめろ。……いいな?」

千葉の言葉に返す言葉が無かった。
関わるどころか、これから核心に迫ろうとしているのに。

千葉の優しさが、夏桜の心に鋭く突き刺さった。
決して裏切ろうとしている訳じゃない。
事件を解決するため。

これ以上、犠牲者を増やさないために、私がすべきことをするだけ。
こうして、毎日私の身の安全をプライベートの時間まで費やして守ってくれているのだから。
少しくらい危険な目に遭ったとしても、対価を払ったと思えば済むこと。

夏桜は決意を新たに小さく頷てみせた。



深夜未明。
室内が乾燥しているのか、喉が渇いた夏桜は、水分補給にキッチンへと向かおうとしたのだが……。

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