CHECKMATE


薄暗い室内にリビングから光が漏れている。
更には、聴こえるはずのないカタカタという電子音まで聴こえて来たのだ。

夏桜は静かに寝室のドアの隙間からリビングの様子を窺うと、真剣な表情でパソコンに向かう千葉の姿があった。
夏桜が千葉の寝室を使うようになって、彼はゲストルームで寝ている。

都心のタワーマンション、眺めのいいお洒落な部屋が複数ある。
夏桜にあてがわれた隣室を使わなくても、十分すぎるくらい広々としている。

ゲストルームは玄関からほど近い場所にあり、万が一の時の為に、一番奥の千葉の主寝室が夏桜にあてがわれた。
更には、高層ビルの上階とはいえ、窓からの侵入も考えられる。

だから、リビングに隣接している寝室のドアは完全に閉まっているのではなく、ほんの僅か開いている状態で生活するのが暗黙のルールであった。
それゆえ、深夜にもかかわらず、気配が漏れて来たのである。

千葉は分厚いファイル片手に険しい表情でパソコンに向かう。
その千葉の様子が、普段とは別人に思えた夏桜。

険しい表情がそう思わせたのではない。
仕事の時はいつだって真剣で、苛ついた表情や悔しさを滲ませた表情も見慣れている。
だけど、この時の千葉は違った。

普段、夏桜の前では吸わない煙草を口に銜え、深く考え込む仕草を見せた。

そんな千葉の姿に見入っていると、夏桜の気配に気が付いたのか、千葉が寝室のドアの方に視線を向けた。

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