CHECKMATE


翌朝、何事もなかったかのように千葉はリビングで新聞を手にしていた。

「おはよう」
「………おはよう」

いつもと違い、少し違和感のある夏桜に気付いた千葉は一瞬顔を上げたが、それを悟られまいといつもと同じルーティーンをこなし始めた夏桜。

「顔、洗って来るね」
「おぉ」

ドギマギしている表情を読み取られないように、夏桜は小走り気味に洗面所へと向かった。

「私、何してるんだろう。これじゃ、バレバレじゃない」

洗面台の鏡に向かって、小さく呟いた。
昨夜は、千葉の思いもよらぬ行動によって、夏桜は動悸が暫く続き、その後、結局一睡も出来ずに朝を迎えたのであった。

千葉とはフィルム越しとはいえ、キスしたことだってある。
仕事上とはいえ、何度も体を密着させ、抱きしめられたことだってあるのに。

昨夜の意外な一面を垣間見てからというもの、千葉に対して、同僚や同居人以上の感情を感じ始めていた。

「用意できたか~?」
「ごめんっ、1分待って!」

登庁するためドア越しに声をかけて来た千葉。
夏桜は口を尖らせ、必死に指先に息を吹きかけていた。

「もういいかな?」

指先が触れないようにトートバッグの持ち手に腕を通し、寝室のドアノブを手首で開けると。

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