CHECKMATE
彼女の体が正常でないことを知っていても、やはり千葉はショックだった。
とはいえ、医師が言うプロラクチンとやらも分からない千葉は、夏桜の様子を窺うしか出来ない。
「基礎体温表はありますか?」
「……はい」
医師の言葉に静かに頷く夏桜。
トートバッグの中から基礎体温表を取り出し、医師に手渡した。
「先月に比べたら、今月はいい感じですね。この調子だと、タイミング療法でいけると思いますよ」
「えっ?」
「これを見る限りでは、来週火曜日辺りが排卵日になりますから、日曜日にご夫婦で頑張って頂き、月曜日にヒューナー検査(性交後試験)をしましょう」
「あのっ、………先生」
「はい、何でしょう?」
千葉は二人のやりとりについて行けず、呆然としてしまった。
夏桜は眉間にしわを寄せ、必死に言葉を探して………。
「先生。主人は明日から今月末まで海外出張で不在なんです。なので、その………ヒューナー検査は……」
「海外出張ですか……。それは仕方ないですね」
「それと、主人は仕事柄、頻繁に海外出張があるので、タイミング療法は難しいと思います」
夏桜は少し前のめりに話しをする。
千葉から見たら医師の言葉を畳み込んでいるようにしか見えなかった。
「えぇ~っと、ご主人は国家公務員さんですか……。お忙しいですか?」
医師はカルテで千葉の職業を確認した。
すると、夏桜は千葉にアイコンタクトで『YES』と答えてと言っている。
仕方なく、千葉は小さく頷き、
「重要案件を任されているので、どうしても他の者に代わる事が出来ないんですよね……」
「そうですか……。それが不妊の原因かもしれませんね。検査結果から言うと、それほど深刻ではないので、ご夫婦で育む時間が足りないのかもしれませんね……」