CHECKMATE


医師と夏桜の会話で、千葉は漸く内容が理解出来た。

検査がどういうものか分からなくても、婦人科に訪れる夫婦の問題とあれば、答えは一つ。
しかも、一度もそういう行為をしている訳でないのだから、夏桜が妊娠するはずもない。
例え、夏桜の体に異常が無かったとしても………。

「では、今後はどうしたいとお考えですか?」
「そうですね……。人工受精も考えてはみたのですが、年末頃までに妊娠出来なければ、主人が暫く海外に赴任しなければならないので、出来れば、確実な方法で……」
「となりますと、体外授精、顕微授精という形になりますが………」
「はい、承知の上です。………宜しくお願いします」

不安な様子を微塵も見せない夏桜を横目に、千葉は感心していた。
さすが、医師資格を持つ者だと。

妊娠を望む普通の夫婦であれば手を取り合い、切実に訴えるであろう場面であるのに、夏桜はレストランで料理を注文するかのように淡々と話している。
しかも、医師も医師で、そんな様子を不思議に思うどころか、ニヤリと不敵な笑みを浮かべたのを千葉は見逃さなかった。

医師は何やらパソコンでカレンダーらしきものを開き、夏桜の基礎体温表と見比べている。
婦人科に疎い千葉であっても、さすがに二人が何をしようとしているかという事くらい理解出来る。

「夏桜」

千葉は夏桜の耳元に声を掛けると、夏桜はゆっくりと千葉に視線を向け、余裕の表情を浮かべた。
『大丈夫よ、私に任せて』と言わんばかりに。

この病院に潜入捜査するにあたり、全権を夏桜に委ねている千葉。

医療知識が乏しいという事もあるが、婦人科という無縁の場所だという事もあって。
だが、さすがにこの展開は不味いのではないかと、千葉は心配になっていた。
それに、医師の表情が特に引っ掛かっていた。

いかにも、したり顔をしていたからだ。

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