CHECKMATE


夏桜は千葉の手に自分の手を重ねた。
傍から見たら、仲のいい夫婦だ。

妻に重責を負わせる夫だが、妻は心配しないでと言わんばかりに凛とした態度を見せている、そんな情景だ。

だが、夏桜の内心は違った。
『ここは黙って見過ごして』と必死だった。

千葉はそんな夏桜の表情に根負けし、静かに見守ることにした。

「では、土曜日の21時頃に卵胞を育てる作用のある卵胞刺激ホルモンの注射と、子宮内膜の厚みを増して受精卵が着床し妊娠が継続しやすくする作用のある黄体形成ホルモンの注射をしましょう」
「主人の妹が看護師なので、薬剤を頂ければ、通院せずに済むと思います」
「そうですか。では、薬剤管理は自己責任になりますので、ご了承の上、受付で書類に記入をお願いしますね」
「はい」

二人の会話に驚きを隠せない千葉。

薬を服用するだけでも心配なのに、注射を打つと言うではないか。
薬剤を手に入れる為の芝居だと分かっていても……。

唖然と二人の会話を聞いていると、

「では、ご主人には、事前に採精して頂きたいのですが、この後に出来ますか?無理であれば、海外から戻られてからでも……」
「すみません、先生。主人はこの後、急ぎの仕事があって戻らないとならないので、出張から戻り次第、また来るという事で宜しいでしょうか?」
「はい、いいですよ~。本当にお忙しいのですね」

電子カルテに情報を入力する医師。
すぐ傍にいる看護師に薬剤の手配を告げた。

夏桜は至極冷静で、そんな様子をじっと見据えている。
千葉は正直、医師の言葉に焦っていた。

事前に夏桜から検査があると告げられた時は心の準備も出来たが、さすがにこの後すぐと言われても……。
出来ない訳ではないが、正直しないでいいなら避けたいのが心情であった。

「では、看護師から説明がありますので、奥さんだけ隣の処置室へ。ご主人は待合室でお待ち下さいね」

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