CHECKMATE
待合室で待っていると、白い袋を手にした夏桜が姿を現した。
「お待たせ。もう終わったから」
「………ん」
千葉は腰を上げると、夏桜は千葉のジャケットをそっと掴んだ。
「嫌な思いさせてごめんね。それに、………ありがとう」
夏桜は他の患者に聞こえないくらいの小声で呟いた。
だが千葉は、そんな夏桜の頭にポンと手を乗せ、
「俺の方こそ、嫌な役をやらせて、すまない」
自然と出た言葉であった。
会計を済ませた二人は無言で車に乗り込んだ。
本庁へと向かう車内、何とも言えない空気が漂っている。
「その袋の中身、捜査に関係があるんだろ?」
「…………ん」
「本当に注射を打つつもりじゃないよな?」
「……………」
千葉は夏桜の言葉が芝居だと思っていた。
いや、芝居だと思いたかった。
けれど、夏桜の瞳は至って真剣で、先ほどの医師の言葉通りに注射をし兼ねないと思ったのだ。
夏桜は千葉の質問に答えなかった。
それが何を意味しているのか、千葉は溜息しか出ない。
「これからどうするつもりなんだ?あの病院、あの医師は一体何をするつもりなんだ?江藤絵里やその同僚のホステスにも関係があるんだろ?そろそろ、俺にもちゃんと説明して貰えないか?」
信号待ちの千葉は、ルームミラー越しに夏桜に語り掛ける。
けれど、夏桜は無言のまま窓の外を眺めていた。
****
その日の夜、マンションに帰宅した二人。
病院を出て以来、未だにぎこちない雰囲気。
先にシャワーを浴びた千葉は、キッチンにいる夏桜をリビングに呼びつけた。
濡れ手をタオルで拭きながらリビングに来た夏桜は、腕組みする千葉の後ろ姿に大きく溜息を零した。