CHECKMATE


夏桜は静かにソファーに腰を下ろすと、千葉はゆっくりと瞼を押し上げた。

「俺を怒らせたいのか?」
「…………」
「俺が本気で怒る前に、何か言えよ」

普段の千葉とは明らかに様子が違った。

声のトーンもかなり低めで、威圧感が半端ない。
多少の脅しくらいでは動揺しない夏桜であったが、さすがにこれ以上隠しておくのは無理があると認識した。

「ちょっと待ってて?」

夏桜は小走りに隣接する部屋へと。
すぐさま戻ってきた夏桜の手には、彼女のお気に入りの白いトートバッグ。

夏桜はそのバッグの中から基礎体温表と自身の手帳、そしてUSBを1つ取り出した。

「これは病院でも見たと思うけど、基礎体温表」
「それ、本当に付けてたのか?」
「『YES』と答えたい所だけど、答えは『NO』。正直、きちんと付けていたら、今日みたいなやり取りはもっと後になってたわ」
「ということは………、何て言ったっけ?………プロ何とかってやつが相当高いって事か?」
「…………もうこれ以上隠しても無駄よね。………そう。私、高プロラクチン血症なの」
「それって、どういう……?」
「プロラクチンは、母乳を作るために脳下垂体から分泌されるホルモンの一種なの。だから、妊婦や産後の女性ならプロラクチンの血中濃度が高くても問題ないけど、妊娠してない女性の場合、過分泌によって月経が減ったり、中には無排卵月経の症状の人もいるわ」
「………」
「私の場合、視床下部に少し問題があるので、それにより分泌が促される事が原因で血中濃度が高いの」
「じゃあ、その…………毎月あるものが不順という事なのか?」
「…………結果的にはね。別に結婚してないし、する気もないし、する予定もないし。とりわけ今の所、何も問題がないから」

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