CHECKMATE


千葉は、ギュッと拳を握りしめた。
婦人科に疎いとは言え、まさか卵子が密売されているとは考えてもみなかったのだ。

裏社会で臓器の密売が行われているなどとよく耳にするが、まさかここまで来たとは………。
千葉はゆっくりと視線を落とし、リビングテーブルの上に置かれた薬剤を手にした。

「これの使用方法は?」
「点鼻薬と同じよ。ノズルを鼻腔に挿入させて、薬剤を吸入するだけ」
「副作用は?」
「個人差もあるけど、ほてりや眩暈のような症状が現れる事があるわ」

千葉は溜息を零しながら、薬剤を箱に戻した。

「これからどうするつもりだ?俺が海外出張って事になってるから、暫く同行も出来ないだろ」
「………ん。ごめんなさい、勝手に決めてしまって」
「まさかとは思うが、本気で採卵とやらをするつもりじゃないよな?」

千葉の目が鋭く光った。

話の流れから言ったら、採卵した後にどうなるか見届けると言っているようなものだ。
それには、かなりの危険を伴うこと必至だ。
鋭い視線を向けられ、夏桜は大きく溜息を吐いた。

日帰りで採卵することになったとしても、さすがに何も言わずに長時間病院に一人でいるだなんて、千葉が許可するとは思ってなかった。
それに、クラブ『AQUA』内での証拠映像がある時点で、夏桜の目的は、証拠の品と同じものを手に入れる事だった。
それが果たせた今、これ以上夏桜が危険を冒してまで潜入捜査する必要はない。

「実は今日、処置室で説明を受けている時に、とある情報を入手したの」
「情報って?
「それはね?今週末の日曜日に、休診日を利用して院内清掃が行われるそうなの。だから、それを利用して……」
「フッ、なるほどな
「でも、……許可が下りるとは思えないけど」
「いや、イケる
「ホント?!」
「あぁ、俺を誰だと思ってんだ」

千葉は口角をキュッと上げ、不敵に微笑んだ。

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