CHECKMATE
千葉が運転する車は、18時過ぎにマンションの地下駐車場に到着した。
後部座席に横たわる夏桜を抱え、千葉は自宅へと急いだ。
意識朦朧としている夏桜をベッドに下ろすと。
「クローゼットの中にある……バッグの中から………白い箱を………出してくれる?」
「箱だな?」
千葉はすぐさまクローゼットの中にあるボストンバッグから、A5サイズの箱を取り出した。
「起きれるか?」
千葉の言葉に小さく頷く夏桜。
千葉に支えられやっとの思いで座位を保ち、箱からアンプル(ガラス製の容器に入った注射剤)と注射器を取り出し、慣れた手つきでアンプルをパキッと割った。
そして、注射針のカバーを外し、アンプルから薬剤を注射器に……。
千葉は何をしたらいいのか分からず、ただじっと見守るしか出来ずにいた。
「そのままにしておいて………。後で…………片付けるから」
夏桜は、使用済みの注射器と空になったアンプルを白い箱の蓋部分に乗せ、サイドテーブルの上に置いた。
「何か用がある時は呼んでくれ。リビングにいるから」
「………ん」
真っ青な顔をした夏桜は、そのまま静かに瞼を閉じた。
ラフな服に着替えさせてやることも出来ず、千葉は不甲斐なさを感じた。
夏桜に布団を掛け、静かに部屋を後にする。
部屋の扉をほんの少しだけ開けて――――。
結局、夏桜は翌日まで起きて来ることは無かった。
夏桜が休んでいる間に、千葉は夏桜が使用した注射剤を調べた。
彼女が使用した製剤は、血液が凝固するのを抑える製剤だと判明。
千葉は夜通しパソコンに向かい、不妊治療や高プロラクチン血症、採卵や体外授精関連を徹底的に調べ上げた。
そして、夏桜が今どんな状態なのか、漸く理解出来た千葉であった。