CHECKMATE
6◇見えぬ蜘蛛の巣
翌朝、いつもより少し早い時間にリビングに姿を現した夏桜。
「大丈夫なのか?」
「……ん、昨日はごめんなさい。……もう大丈夫だから」
「マジで無理するな」
まだ青白い顔で長い髪を纏め上げ、苦笑しながら小さく頷いた。
そして、いつものルーティーンをこなす。
そんな彼女を目にし、千葉は大きな溜息を吐いた。
根が生真面目すぎる夏桜。
決して、弱音を吐かない。
限界まで自分を追い込まなくてもいいのにと思う千葉であった。
登庁した後も、いつもと変わらずパソコンに向かう夏桜。
時折眉間にしわを寄せ、何度も深呼吸をしている所を見ると、まだ痛みがあるようだ。
けれど、自分から助けを求めない彼女なだけに、千葉はどうしたものかと悩みあぐねていた。
「少しの間出てくるから、何かあったら携帯を鳴らしてくれ」
「了解」
千葉は夏桜を連れ出さず、本庁に残して行くことにした。
そうすれば、少しでも休めると思ったのだ。
本庁を後にした千葉は、その足で上野に向かった。
キャップを目深にかぶり眼鏡まで掛けて、用意周到である。
駅からほど近く、どこにでもあるような定食屋。
昼時という事もあり、店内は賑わっていた。
携帯電話片手に店内奥を覗くと、手で合図を送る男がいる。
「待たせて悪いな」
「お先に戴きました」
「注文はお決まりになりまし「鯖の味噌煮定食で」
千葉は店員の言葉に被せるように言い、席に着いた。
「鯖の味噌煮定食をお一つですね。少々お待ち下さいませ」
店員が水の入ったグラスを置き、その場を後にすると。