CHECKMATE
千葉の言葉に夏桜はハッとした。
千葉の言う通りだ。
夏桜は自分一人が犠牲になればいいと思っていたが、これはチームプレーで解決しなければならない。
いつだって一人で問題と向き合って来た夏桜にとって、チームで動くことの意義が理解出来て無かったのだ。
それに、無謀な行動が命取りになることも、改めて実感した。
千葉は、チームの全責任を負っている。
それゆえ、些細な事でも気が抜けないのである。
そんな千葉の立場を漸く身をもって理解した夏桜。
自分自身の気持ちがどうとか言っている場合じゃない。
今は、事件解決だけを考えなくては………。
心から反省するかのように、夏桜は大きな溜息を吐いた。
「ごめんなさい。……………気を付けます」
「…………分かればいい」
フッと表情を和らげた千葉は、そっと夏桜の手を取った。
「悪かったな、無理やり掴んで。………少し赤くなってるな」
「っ……、大丈夫よっ」
さっきまで鋭い顔つきだった千葉が蕩けるほど優しい態度を示すから、不意をつかれた夏桜は、否応なしに胸が反応してしまった。
その時!
カツカツカツカツと軽快な足音と共に倉賀野が慌てて駆けて来た。
「班長っ!…………あ」
非常階段手前の壁に凭れるようにしている二人は、傍から見たらいちゃつく恋人同士のようで。
駆け寄った倉賀野が動揺するのも無理はない。
けれど、そんなことはお構いなしの千葉は、
「さっき言ったことを忘れるな?」
夏桜の耳元に一言告げて、その場を後にした。
とり残された夏桜は深呼吸し、気持ちの整理を図る。
「彼にこれ以上迷惑をかけちゃ駄目よ。今でも十分お荷物なのに、精神的に追い詰めたら………私は生きてる意味がないじゃない」
弱弱しい夏桜の声が、その場に吸い込まれていった―――。