CHECKMATE
「体外授精や顕微授精をするにあたり、採卵するまでの期間に大抵ホルモン注射が施されます。通常は幾つかの段階に分けて量を増やしていくのですが、このファイルに記載のある患者の女性たちは、最初から多量のホルモン注射を受けていることになってます」
「それって、良くないことなんですか?」
「一概には言えませんが、短期間で妊娠を望む夫婦であれば、一度に沢山の卵子を採卵することで妊娠する確率が増える訳ですから、違法とまでは言い切れません。正し、短期間で多量のホルモン注射をする訳ですから、当然副作用もあります」
「悪い、その手の事には疎いんだが、ホルモン注射を打つのと打たないのとでは、どれくらいの差があるんだ?」
「そうですね、それも一概には言えないのですが、排卵促進剤と呼ばれるホルモン注射をある程度打った人であれば、左右の卵巣から2~3個ずつは採卵出来ますね。ですが、その卵子が必ずしも状態の良いものとは限りませんけど……」
「全く打たないとすると……?」
「不妊治療していない女性と同じで、通常左右どちらかの卵巣から1つしか排卵しませんので、1周期に1つとなります。稀に双子や三つ子が生まれるのと同じで、二つ、もしくは三つの卵子が排卵する人もいますけど」
「ん~、なるほどな」
神保は顎に伸びた無精髭を摩りながら頷いた。
「ここで注目すべきことは、短期間で多量のホルモン注射を受けている事ではなく、その後に目を向けて貰いたいんです」
「……というと?」
千葉の合いの手に反応するように、夏桜はプロジェクターで採卵と授精、更に胚培養及び胚移植が記されたものを映し出した。