CHECKMATE
「採取した卵子のうち授精出来るのは3つまでと法律で決められおり、残りの卵子は凍結保存し、万が一授精しなかったり、授精したものを胚移植しても着床しなかった場合、次の周期に使用することが出来ます。又、妊娠した夫婦であっても、二人目三人目と子供を望む夫婦も多いので、そういった場合に対応出来るように凍結しておくのが一般的なのですが………。その流れの中で不正している事実が発覚しました」
「何っ?!」
夏桜の言葉に神保が身を乗り出した。
「これを見て下さい。このご夫婦は今年初めに顕微授精を行っています。採卵した卵子の個数は6個、そのうち3個を顕微授精させ、状態のいい受精卵を2つ胚移植(子宮内に移植すること)しています。残りの受精卵1つは、残りの卵子と共に凍結してあることになってますが、ファイルの摘要欄には、6(3)-3/2:3/1【3】とあります」
夏桜が示す数式のような数字に視線が集中する。
「6は採卵によって採取した卵子の数、そこから3個顕微授精させたので-3、そのうち2個を胚移植したので/2で表されます。したがって、残りの卵子3個と受精卵1個という表記になってますが、この(3)というのが、問題の数字です。私の見解ですが、採卵により採取した卵子の所に(3)となっているので、本来は6個ではなく、9個採取したはずです」
「じゃあ何か?この夫婦は3つ多く卵子を採取されたことを知らずにいるという事か?」
「…………恐らく」
「そんなことが可能なのか?」
険しい表情で神保が聞き返してきた。
「普通であれば、あり得ません。採卵は麻酔をしますので手術と同じ扱いになりますが、静脈麻酔なので、術中の会話は聞こえているはずです。通常は、『今何個目が採れましたよ~』などと声掛けし、患者を安心させる病院が殆どです。恐らく、あの病院はそういった事をせずに行っているのでしょうね」
説明する夏桜は心が痛んだ。
切実に願っている夫婦を欺いているのだから……。
医師として、決して許せる行為ではない。