CHECKMATE
「それから、これは別のご夫婦のものです」
夏桜はプロジェクターで新しい書式を映し出した。
「こちらも同じように体外授精されたご夫婦のものなのですが、問題箇所はここです」
夏桜が示す先には、またもや数式のようなものが記されている。
「『【A2/1、B1/2】Dis 確認済み』とあります。A2とB1というのは、受精卵の状態を示し、A~Dくらいの段階で表し、Aは状態が非常にいいものを差します」
「状態がいいというのは?」
「着床しやすい状態のものをいいます。DよりC,CよりB、BよりAの方が着床確率が高くなります。一般的に、この時点で状態が悪いと、何らかの障害を抱える率が高いと言われています」
「……なるほどな」
盛大な溜息を零した神保。
険しい表情なのは誰しも同じだが、とりわけ神保は憂える表情を浮かべた。
そんな神保を心配し、千葉は声を掛ける。
「照さん、どうかしたんですか?」
「いや、………う~ん」
思い悩むような表情を浮かべた神保は、ゆっくりと口を開いた。
「5年前に結婚した娘が、どうやら不妊症らしくてな。一昨年から不妊治療を始めたんだが、どうにも成果がでないらしく、今さっき東が話してた顕微授精とやらに踏み切ると先週聞いたばかりだったもんでな……」
「そうだったんですか……、それじゃあ、心配にもなりますよね」
「ん~……」
気落ちした神保の前に移動した夏桜は、神保の両手を包み込んだ。
「不妊治療を施す病院全てが悪行を働いている訳ではありません。殆どの病院が良心的ですし、何より、周りがプレッシャーを掛けては可哀そうですよ。娘さんの為にもドーンと構えて、そのうち授かるだろうくらいの気持ちで見守ってあげて下さいね。何なら、私がいい病院をご紹介しましょうか?」
「フッ、……ありがとな」
夏桜の言葉で漸く安堵した神保。
その表情は明らかに晴れやかなものになった。