CHECKMATE
夫の事は何も語らぬジョアンだが、フィリピンにいる家族の事は色々話してくれている。
年の離れた幼い弟と妹がいて、父親は事故により右足が麻痺しているという。
更に父親が定職に就けないが為、母親がフルパートで働いているが、家計を支えるほどにはならないらしい。
そんな母親は栄養失調で右目が見えなくなったという。
そんな家族の為に、ジョアンは日本に出稼ぎに来たらしい。
フィリピンにいる家族の話をしている時のジョアンは、家族思いの心優しい女性にしか見えない。
まだ21歳という若さで日本に出稼ぎに来たというが、夏桜からしたら、10代にも見える。
確かに日本で稼ぎ、そのお金を仕送りすれば、フィリピンにいる家族は助かるだろう。
だからと言って、違法なことに手を染めて欲しくない………夏桜はそう思った。
剣持と水島の調べによると、ジョアンが働いているというパブは上野に存在していた。
更にそのパブに、ジョアンの姿があったという。
全てが嘘なわけではないらしい。
夕方から深夜にかけて働いている彼女は、数時間休んでから病院へと足を運び、治療が終わるとそのままアパートに帰って夕方まで休むという。
「ジョアンを救う手立てはあるの?」
「…………医師と病院を摘発し、組織を壊滅させることが1番なんだが………。決定的証拠と、密売の取引現場を抑えない事には………」
夏桜の鋭い視線が千葉に向けられるが、すぐさまどうこうなる問題ではない。
安易に動けば、敵にこちらの動きを読まれてしまう。
既に桑原の死や、美人局の件、クラブの地取り(周辺の聞き込み)等で、警察が動いていることに勘づかれている。
これ以上、敵に塩を送ることは出来ない。
「じゃあ私は、モニターチェックしてていい?」
「おぅ、それは構わないが、何かあるのか?」
「ん、………何となくね」
真剣な表情でパソコンに向かう夏桜を見据え『また危険なことをするな』と、刑事の勘がそう思わせる。
千葉は無意識に大きな溜息が漏れ出していた。