CHECKMATE
「私が開発していたのは、遺伝子治療なの」
「遺伝子治療って、………テレビとかでもよく言ってるやつだよな?」
「そう、………それ」
「でもそれなら、日本もそうだが、先進国ならどこでも研究されてるだろ」
「まぁ、そうね。遺伝子治療は1990年にアメリカで初めて成功し、その後も様々な研究がなされてるわ」
「………ん」
「そもそも遺伝子治療っていうのは、損傷した遺伝子や機能してない遺伝子に代わり、正常な遺伝子を組み込む方法と、過剰に機能する遺伝子を抑制する効果を目的とした方法のことを言うの」
「ん」
「だけど、私が研究してた、ううん、研究させられてたのは、正常に機能している遺伝子であっても、より優れた機能を果たす遺伝子に組み替えるというもので………。それは言わば、倫理に反することを示すようなことだったの」
「…………ようするに、違法なことをしてたってことか」
「アメリカでは1985年に遺伝子治療のガイドラインが制定されたし、日本でも同じように遺伝子治療臨床研究に関する指針というものがあるわ。その他の国でも同じようなものがそれぞれにあって。でも、製薬会社の裏には大きな闇の組織が存在し、その組織の指示で、倫理に反することでもせざるを得なかったの」
「じゃあ、その闇の組織ってのに追われてるってことか」
「…………ん」
思い出したくもない記憶が、夏桜を襲う。
「確か、研究途中で帰国したんだったよな?」
「ん」
「ってことは、また研究させたくて追われてるってことか?」
「…………多分、違う」
「じゃあ、何故追われてる。研究した内容を他の組織や国に渡るのを阻止する為か?」
「……………半分正解ってところかしら」
「半分?」
眉間にしわを寄せた千葉を、夏桜は真っすぐ見据えた。
「私が、……………とあるデータを持ってるの」
「ッ?!……………じゃあ、何か?そのデータを手に入れる為に、追われてるのか?」
「ん………恐らくね」
千葉が心配しているのをよそに、夏桜はあっけらかんとした表情をした。