CHECKMATE


夏桜はアリ地獄のような底なしの闇に一瞬で落ちた気がした。
毎日恐怖と隣り合わせでも充実した日々を送っていただけに………。

我に返った時には既に元の画面に戻っている。
私の気のせいだろうか?
疲れが溜まって見間違えたのかしら?
そうよ、そうに違いない。

夏桜は深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
そして、何事もなかったかのように机上を片付け始めた。

****

「夏桜さん、どこか具合でも悪いんですか?」
「え?………ううん、何ともないけど」
「ホントですか?無理しないで下さいね?俺らと違って夏桜さん女性なんですから」
「ありがとね」

警視庁を出た剣持の車は、倉賀野がいるテナントビルへと向かう。
言葉に出さなくても、何となくいつもと違う感じが伝わってしまったようだ。

夏桜はミラー越しにニコッと微笑んで、流れる景色に視線を移した。

今更じたばたしたってどうしようもない。
なるようになるだけ。

私の命の期限が残り僅かなのであれば、その残りの時間を有効に使わないと。
彼らの目当てが私であって、他の誰でもないのだから。
私が覚悟を決めればいいだけのこと。

夏桜は自分自身に言い聞かせていた。


****

「お疲れ様です」
「早かったな」

千葉はシキテン(見張り)している神保と合流した。
数十メートル先の倉庫を指差し、神保は携帯カメラで撮った写真を千葉に見せる。

「今の所、出入りしているのは下っ端の奴らだけだ。それに、出入りする際もそれほど辺りを気にしていない所をみると、ここには無いな」
「そうですね。百歩譲ってヤク(薬物・麻薬)があるとしても、少量でしょうね。それに、ダニエルが運んで来ると仮定して、保管できる専用凍結機が必要ですから、それがあそこにありますかね?」

千葉と神保は鋭い眼差しで様子を窺う。

< 250 / 305 >

この作品をシェア

pagetop