CHECKMATE
8◇表と裏/二つの顔


ピンポーン。

「あ、一輝さんが来たみたいです。夏桜さん、一旦止めますよ?」
「あぁ~ん、ダメっ、ん~もうちょっとぉ~」

ピンポーン。

「シーッ!そんな声だしたら変に誤解されて、ドアをぶち壊してきますよッ!」
「んッ、ん~っん、だってぇ~んッ!」

鼻にかかった夏桜の声を塞ぐべく、剣持は目を真っ赤に腫らした夏桜の口元を手で覆った。

「いいですか?変な声、出さないで下さいね?」

剣持は夏桜の耳元にそっと囁く。

千葉とは違う部類だが、剣持も十分にイケメンである。
しかも、女性慣れしているのか、耳元に甘く囁くようにされては、不本意でもドキッとしてしまった。

ゆっくりと離された手。
剣持は夏桜の顔を窺うように覗き込む。
そんな彼と視線を合わせれば、女性なら一瞬で落ちてしまいそうな顔でウインクまで見舞われて。

「お疲れさまです」
「悪い、遅くなった」
「どうでしたか?何か、収穫はありましたか?」
「ん、決定的な証拠とは言えないが、手掛かりにはなるだろうな」
「そうですか」

剣持と共に室内に姿を現した千葉は、珍しく革ジャンを着ていた。

来慣れているのか、部屋の配置を熟知しているようで、千葉は真っすぐキッチンへ行きグラスを手にしてリビングの脇にあるウォーターサーバーへと向かう。
そして、グラスに冷水を入れ、それを一気に飲み干した。
ゴクゴクと飲む千葉の喉仏が動くのに目を奪われ、夏桜はポカンとしてしまった。

「お前も飲むか?」
「え?」
「欲しそうにしてるから」
「あ、ううん、大丈夫」

空になったグラスをカウンターの上に置き、千葉は夏桜の隣にボスっと腰を下ろした。

「こうして二人を見ると、ホント、新婚さんみたいですよ?」
「フッ、変なこと言ってんじゃねぇよ」
「そ、そうよっ!誰が、こんな人とっ」

冗談で発した剣持の言葉なのに、夏桜は真に受けていた。

「悪かったな、“こんな人”で」
「っ………」

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