CHECKMATE
「先にシャワー浴びて来ていいか?」
千葉は玄関を開けながら振り返る。
「ん、どうぞごゆっくり」
「悪いな、じゃあお先に」
玄関に入ると、そのまま浴室へと向かった。
夏桜はドアが完全に閉まる前に手で止め、足元にある千葉の革靴を手にして静かに外に出る。
そして、ドアが閉まらぬように慎重に靴を挟み込む。
隙間から中の様子を窺い、気配が無いことを確認して素早くとある場所へと向かった。
辺りを気にしながら早歩きする夏桜。
人気が無いことを確認して、エレベーター脇に置かれた観葉植物の鉢の中に手を差し入れる。
震え気味の手は、とあるものを手にした。
すぐさま玄関へと舞い戻り、浴室からシャワー音が聞こえるのを確認して、静かにドアを閉めた。
高級タワーマンションのセキュリティーは、否応なしに夏桜を襲う。
シャワー音に掻き消されるかどうか微妙なくらいの音が玄関に響いた。
一瞬ドキッとした夏桜だったが、シャワー音はまだ聞こえてくる。
騒ぐ胸に手を当て、呼吸を整えながら部屋へと急いだ。
夏桜はベッドに腰かけ、トートバッグの中から自分のタブレットPCを取り出し起動させる。
「何も映ってませんように……」
神頼みでもするかのように、手に握ったままの状態で必死に祈願する。
深呼吸してパスワードを入力しロックを解除した夏桜は、手の中にあるものをタブレットに差し込んだ。
鉢植えから取り出したのは、USB型のビデオカメラ。
半月ほど前に『化粧品を注文する』と千葉に偽って、密かにネット購入したもの。
夏桜は意を決して画像を確認し始めた。
「夏桜、具合でも悪いのか?」
「あ、ううん、大丈夫。ブラウスのボタンが取れちゃったから、直してただけ。今行くね~」
「おぅ」
夏桜はタブレットを布団の中に隠して、必死に乱れる呼吸を整える。
大丈夫、まだ何も起こってないんだから………と、唱えながら。