CHECKMATE
翌日、テナントビルの地下駐車場に着いた車を降りた夏桜は、いつもと変わらぬ素振りで婦人科へと向かおうとすると。
「夏桜」
「…………ん?」
「何かあっちゃ困るんだが、変わったことがあったら、すぐ連絡しろよ?」
「………うん」
手でジェスチャーをする千葉に小さく頷き、夏桜は向かいの婦人科へと向かう。
心地よいBGMが流れる院内。
受付に診察券を出し、予約票の注射希望欄に記名して、既に待合室にいるジョアンの隣に腰を下ろす。
「Hi! It's so hot today as well.(今日も暑いね~)」
「アツイ デスヨ」
2人で肩を並べて待合室にあるテレビを眺めると。
「ナオサン」
「ん?」
「ワタシ、………フィリピン カエリマス」
「いつ?」
「Next month or the month after.(来月か再来月)」
「Really.(そうなんだ)」
突然の言葉に、うまい言葉が見つからない。
そんな夏桜の手を取り、ジョアンは微笑んだ。
「アシタ ランチ シマショウ」
「………ん」
「ワタシ pay(支払い) シマス」
「本当に気にしなくていいって言ってるのに」
「ダメ デス」
「It's OK.(分かったわ)」
微笑むジョアンを見据え、夏桜は思った。
目標のお金が貯まったのかしら?
それとも、ご両親の具合が悪いとか?
でも、それを聞いたからと言って、どうすることも出来ない。
彼女が打ち明けてくれるのなら話は別だが、こちらから問いただす訳にもいかず。
今は彼女が故郷に帰って、家族と一緒に倖せに暮らすことを祈るばかり。
夏桜はジョアンの手をぎゅっと握り返した。